【更新停止中】万能チート魔女は天才チート魔女と共に神を殺す

イノナかノかワズ

一部 神代の魔女 一章 魔女と騎士

一話 最悪な第一印象

「『万能の魔女』、レヴィア。早速じゃがお主には二つの任務がでておる」


 南大陸の三分の一の国土を持つユーデスク王国。その国王に直接進言する事が可能で、国の重要な政まつりごとを指揮する魔術師。

 それが一代限りの爵位を持つ魔術侯爵、通称大八魔導士。

 国内にいる数十万以上の魔術師のトップであり、原則では国王が課した任務でしか動くことがない存在。


 たった八席しかないその存在に弱冠十六歳でなった金髪碧眼の麗人、レヴィア・タンペットェ・ベネットは目の前にいる老人の言葉に下げていた頭を上げ、老人から書類を受け取る。

 深紅のヘアゴムよって後で一つに結ばれている色素が薄い金髪は、腰まで流れていて、スッと通った鼻筋に切れ目の碧眼、そして騎士様と言われそうなほどに麗しい顔が書類を読むため動く。

 背も高くスタイルも整った彼女は気品ある所作で老人に訊ねる。


「第二王子の護衛と弟子ですか」

「そうじゃ」


 老人は顎に蓄えた白い髭を触りながら頷いた。

 レヴィアは碧眼を少しだけ下げながら訊ねる。


「マーティー殿。最初に、第二王子の護衛についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うむ。じゃがそれは歩きながらでよいかの?」

「はい」


 二人は小さな一室を出て簡素で静かな廊下を歩く。マーティーはゆったりながらも堂々とした足取りで、レヴィアは美しく上品な足取りで並びながら歩く。

 二人の足音しか響いていない。


「ルーク殿下が王国高等学園に今年入学することは知っておるな」

「第三王子ですか。はい、存じております」


 王国高等学園とはユーデスク王国が保有する教育機関の一つであり、魔術大学、騎士大学と同じ学園都市にある。

 貴族の子息子女の大抵はここに入り、政治や帝王学、学問などを学ぶ。十五歳から入学し、通常は三年制、学問を究める場合は二年追加の五年制になる。


 魔術大学は魔術や科学などの学問を専攻する教育兼研究機関で、騎士大学は戦闘や戦争、治安に災害救助、兵器などの教育兼研究機関である。

 魔術大学と騎士大学は四年制で年齢性別種族を問わず、能力と金があれば誰でも入学できる教育機関である。

 また、王国高等学園は教育に重きを置き、魔術大学と騎士大学は研究に重きを置いている。


「オスカー殿下が既に在籍しておることは」

「はい。去年魔術講義の特別講師として指導した事があります。噂に違わぬ優秀なお方でした」


 レヴィアは己の祝福ギフトでその時を思い出しながら、貴族たちの派閥の関係を再考していく。

 ただ孤児であり、大八魔導士になったのもつい最近のレヴィアはあまり有力な情報を持っていない。

 持っているとすれば、片手間でやっている商会の客である婦人や夫人たちのスリーサイズや痴情のもつれぐらいである。

 ……ちなみに大八魔導士が商会を運営することは禁じられている。

 それ故にレヴィアは商会長ではなく特別顧問として雇われている……体である。


「ふむ。あまり貴族社会には興味がないと思っておったが、流石にそれは知っておるか」

「ええ、まぁ」


 ――流石に自分の雇い主の子供がぐらいは知っています。というか私は大八魔導士でまつりごとの中心で活動する存在です。それくらい知っていて当たり前でしょう。馬鹿にしているのですか? それともボケたのですか?

 とレヴィアは隣を歩く耄碌爺を心の中で罵るが、美しく整った顔は崩さない。


「ならオスカー殿下が――」


 その続きは分かったので、不躾ながらレヴィアはマーティーの言葉を遮る。

 流石に子供でも知っていそうな事を淡々と言われるのはムカつくのだろう。


「――それも存じております。……あのマーティー殿、簡潔にお願いいたします」

「……ふむ。それもそうじゃな」


 マーティーとしては自分の孫娘ほどの年齢であるレヴィアとゆっくり会話していたかったのだが、大賢者の再来と名高い彼女に機嫌を損なわれても面倒である。

 まぁ面倒で済むあたり、マーティーがどれほどの者かは何となく分かるが。

 なので仕方なく顎の白髭を撫でながら鋭い目でレヴィアを見た。


「近頃帝国がきな臭いらしくての」

「……なるほど、ブルーコルムバ大公爵ですか」

「うむ、そうじゃ」


 ブルーコルムバ大公爵は帝国と貿易を交わしていて、また第三王子の支援者でもある。そして現当主になってからあまりいい噂を聞かなくなった。

 第三王子の支援者としては、次期国王の後目争いでも、民からの人気も高く才気あふれる優秀な第二王子、オスカーは目の上のたんこぶである。

 第一王子は民からの評判はいいものの、弟のオスカーほど優秀ではなく、現状貴族の間ではオスカーを押す声が大きい。

 ただオスカーは出自の事もあり、大公爵や公爵からはあまり評判がよくない。


 まぁそんな情報が知っている者が今の直接的な会話を聞けば、真っ青になるのだが、しかしこの二人は気にせず堂々と廊下で話し続ける。


「確かにあそこは血統主義ですし、それに帝国の奴隷組織に加担しているらしと聞き及んでおります」

「うむ、事実じゃの。まぁ兎も角今の当主がどう出てくるか分からん以上、護衛は必要じゃからの」

「確かに暗殺が得意な魔術師や戦士も擁していると。……つまり、王国高等学園に編入して第二王子派に属せよと」

「そうじゃ」


 王国高等学園には学生しか入れない。使用人や一般的な護衛など王国高等学園に所属していない者は学園内に入ることができない。

 また教師や講師は学園都市が雇っていて、学園都市内においての政治関与などはしてはならないとされているため当てにならない。

 ただ、それだけなら問題はなく、普通に護衛や使用人として教育した者を学生にすればよいだけである。

 まぁ護衛対象と同年代の学生を作るにはは相応のお金がかかるので、良くて一人、最悪なしの場合も多いが。

 

 だが今回レヴィアの護衛対象は第二王子である。

 出自に汚点があろうとも、第二王子であるから相応の学生兼護衛はいる。彼らでも暗殺やらを防ぐことは可能だろう。

 なのにレヴィアにこの話がきたのは、未だ貴族社会のどの派閥にも所属していないレヴィアが第二王子派に所属したことを喧伝し、第三王子派を牽制するためである。

 それに孤児出身の大八魔導士と平民人気が高いオスカーは相性がいい。


 そんな事をつらつら考えながら、己が派閥に所属するメリットやらデメリットを考え、果てにはこれが釣り・・である可能性も考慮に入れ、今後二年間の面倒を考え、レヴィアは心の中で溜息を吐く。

 ついでに護衛のための準備を考えたら。


「……はぁ借家を引き払わなければならないですか」


 心の中だけでは収まらず、普通に声に出してしまった。


 ――何で着任時にこの話をしないんですか。ったく。

 つい先月大八魔導士になり、王都で生活するために色々と環境を整え、奔走したレヴィアにとって直ぐに引っ越しをしなければならないと考えたら、頭が痛い。

 マーティーはそれが分かっていたようで好々爺の如くレヴィアを見て言った。


「それなら既に手配しておる。それと今回は任務じゃからの、ここ二年の生活費や護衛にかかる費用などはこっちで持つと陛下がおっしゃっておったぞ」

「……商会は?」

「何故か知らないが王族御用達になるそうじゃ」


 ――ふむ。これは結構分のいい任務ではないか。第二王子派に所属すれば庶民からの看板も尽くし、金になるし……


 レヴィアは掌を返す。

 ここから二年分の生活費がタダになり、護衛にかかる費用といって魔道具の材料を買い込むこともでき、横流しして商会の開発費にも回せるかもしれない。

 それに自分の大八魔導士の名の看板にプラスして王族御用達ともなれば、商会の売り上げも確実に上がるだろう。 

 色々なあくどい事や懐に入る金額を頭の中で想像し、レヴィアは引っ越しの手間の憂鬱さを晴らす。


「マーティー殿。この大八魔導士であり『万能の魔女』レヴィアが、謹んでその任務を受けましょう」

「うむ。頼むのじゃ。……してもう一つの任務じゃが」

「……弟子でしたか。しかしマーティー殿。私は年齢が年齢ですし、弟子は……」


 レヴィアは魔術師ランク最高峰の十三星魔術師であり、大八魔導士であるが、しかし年齢は十六。

 成人から一年少しで、しかも孤児である彼女の弟子になりたいと思う者は意外に少ない。

 魔術師は、特に貴族の出の魔術師はプライドが高い者が多く、そうでない者は既に師匠を持っている。

 そしてレヴィアが弟子を持つとしたら、成人未満の、たぶん十もいかない子供だろう。


 正直とても面倒である。

 子供は好きではないし、そんなのに己の時間を掛けたくない。商会で金を簡単に得ながら魔道具を作ったり魔術の研究に時間を注ぎたい。


「そうも言っておれん。お主は大八魔導士じゃからの。弟子のひとりを育てられんでは貴族たちがうるさいのじゃ。それとただの弟子ではない」


 先程の第二王子の護衛のきな臭さに忘れていたが、弟子を取る任務も出されていた事を思い出す。

 そも貴族たちがうるさいだけならば、隣を歩いているマーティーは任務ではなく催促という形で伝えるだろう。

 そうでないなら。


「……監視でしょうか?」

「勘がいいのう。その通りじゃ」


 高名な魔術師には弟子という名の監視対象がいたりする。

 というのも、魔術の才をもつ平民の子が己の才に気が付かずに何かのきっかけで魔術を発動させ暴走させてしまう事がある。

 また、それ以外にもスパイ訓練を受けた子が孤児や平民を装って国へ害を為すこともある。レヴィアは一度それを疑われた。

 

 ――はぁ面倒臭い。

 だからその当時の事を思い出して心の中で溜息を吐く。

 師匠が自分に何をしていたかを祝福ギフトによって鮮明に思い出し、それを自分がしなれければならないのかと憂鬱になる。

 ついでに貴族たちの煩わしい勧誘や妨害を減らすために、そしてお給金目当てに大八魔導士なったのは失敗だったのではと後悔する。


 そんなレヴィアの心の動きを、表情に出てはいないものの長く生きているマーティーは手に取る様に把握し、少しだけ隣の娘を不憫に思うが、懐から一枚の紙を取り出した。

 レヴィアはそれを受け取る。


「エイミー・オブスキュアリティー・モス。成人したばかりの少女じゃ。彼のモス伯爵の奇行の一つじゃ」

「……平民だらけの養子の一人ですか」


 モス伯爵は死竜の荒野と自由冒険組合連合に接する領地を持つ伯爵であり、貴族たちの間では奇特な人物として有名である。

 そのモス伯爵の奇行の一つに平民だらけの養子というのがある。

 通常貴族が養子を取る場合は、貴族間における子息子女の受け渡しや、後は優秀過ぎる平民、例えばレヴィアのように魔術に対する才がある存在などを己の陣営に引き込むためである。

 だが、だがモス伯爵はそのために養子を取っているわけではない。

 死竜の荒野と接しているため、そこに子供を捨てる者が少なからずいる。死竜の怨念を抑えるための生贄みたいだと考える者がいるのだ。

 モス伯爵はその捨て子全員を養子として引き取り、貴族の養子としての相当の教育を施し、そして野放しにするのだ。


 そう、野放しなのだ。


 己の陣営に引き込むでもなく、成人したら自由にしろという感じであり、また何か支援が必要ならしてやるという見返り一切求めない奇行。

 モス伯爵はそんな訳もわからない奇行を幾つもしているのだ。

 そして死竜の荒野と自由冒険組合連合に接した領地を持っているから、軍事的にもまた産業的に強い部分があり、タブー的な存在として貴族間では扱われる。

 触らぬ神に祟りなしである。

 

 前世の記憶をもっていてもその奇行を殆どを理解できないレヴィアだが、彼の伯爵には頭が上がらなかったりする。

 モス伯爵のお陰で今の地位にいるとも言えるからだ。

 モス伯爵の奇行の一つに、魔術大学、騎士大学に入りたい者には身分年齢性別種族出身地など、意欲があればそれ以外を問わず援助金を出すという奇行がある。

 それによりレヴィアは教材を買う事ができ、入学資金も得られ、在籍している間の生活費なども困らなかったのだ。

 そしてその援助金は殆ど返さなくていい。返すのは大銀貨一枚、一般的な平民の月収の四分の一を返せばいい。元がとれないおかしな行為である。


「そうじゃ。そして『空欄の魔術師』じゃ」

「……へ?」


 モス伯爵の奇行を思い出しながらマーティーの話を聞いていたレヴィアは、思わず気の抜けた声を出した。

 先程まで、微笑を湛えながらも崩さなかったその表情は間抜け面となった。美しい麗人がぽかんと口を開けている姿は意外にも可愛らしい。


「ま、マーティー殿。え、それは――」


 唇が覚束ない。

 混乱により常軌を逸した思考速度と口が乖離しているのだ。


「――本当じゃ。……モス伯爵が三年前からある奇行を始めての。ここ最近になってそれが少し問題になり、先日国王陛下から任務を受けて調査しに言ったんじゃ」


 レヴィアはマーティーの話を聞きながらも、動揺する心を落ち着かせる。

 『空欄の魔術師』が見つかったことは、天才と名高く前世の記憶を持ち大抵の事では動揺しないレヴィアですら動揺する事なのだ。

 というか、ここ最近では、『空欄の魔術師』は人ではなく精霊や妖精、神々に連なる存在なのではないかと言われていたのだ。

 それが人であり、名前からして女性であったことにも驚きである。


「そして見つけたのじゃ。そのモス伯爵の奇行、事業じゃな。それの出資者をしておった」

「出資者ですか?」

「そうじゃ。伯爵の者でも渋る額を出資しておった。まぁ全て魔術省に提出した論文で得た金なのじゃろうが」


 リヴィアは心の落ち着かせるために単語を聞き返し、また先程マーティーから受け取った紙を見た。

 そこには名前と種族、性別、年齢、魔術適性、魔力量、祝福ギフトが記載されていた。


「……はぁ? え、え? あ、あのマーティー殿。この魔術適性と魔力量は……それにこの祝福ギフトは……」

「……確かじゃ。天は二物を与えずなんぞこの年になるまで嘘だと信じておったが、常識は簡単に覆るのぅ。……レヴィアよ。驚いているところすまんが、ついたようじゃ」


 レヴィアは記載されている内容を未だに信じられず、整った顔を百面相のようにしていたが、目の前に扉があり、一旦今見たことを忘れる事にした。

 まぁ祝福ギフトによって忘れる事などできないのだが。


 そしてマーティーが開いた扉の先にいたのは。


「ねぇ、このチョコ、チョコを早くもってきなよ! 私、お、きゃ、く、じ、ん、だよ! あの大八魔導士の長老爺の客人だよ。ねぇ~~? 何で持ってこないのかな。ねぇ~~教えてくれる? 胸だけでかい牛メイドさん? あ、そうそう。さっきのお茶、めっちゃまずかったから、ね? 覚悟しといてよ。あ~あ、ホント、こんなんが王宮勤めのメイドとか、はぁ~~。ガッカリだな。ガッカリしたよ。だからさ、お金、詫びのお金払ってよ。ね、いいでしょ、駄、メ、イ――!?――」

「――ああ! マーティー様! どうか、どうかこの者を! この人ですらないクズを殺してください!」


 ヤギの頭蓋骨で顔を覆った十二歳程度のローブ姿の少女が、土下座している茶牛族のメイドに向かって嫌らしくムカつくような声で煽っていたのだ。

 ついでに部屋はひっちゃかめっちゃかに散らかっていて、何故か部屋の中央には大きな袋があり、その中から高価そうな調度品や美術品などが見える。

 土下座しながらも、茶髪のメイドは人を殺さんばかりの視線で頭蓋骨少女を睨んでいた。

 そしてマーティーに気が付くと、頭蓋骨少女にボディーブローをかまし、首を締めながらマーティーに訴えた。

 マーティーが手を加えなくても死んでいきそうな感じである。ギブギブと声にならない声で叫んでいる。


 二人はあまりの事に呆然として扉を閉めてしまった。

 中からゲコっとカエルが鳴き声が聞こえた。





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読んで下さりありがとうございます。

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また私の別作品、『巻き込まれ召喚者たちは、ファンタジー地球に巻き込まれる!』もよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861503102923

一話リンク

https://kakuyomu.jp/works/16816927861503102923/episodes/16816927861503113596

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