第30話 とつにゅー

「でだな。騎士団を含む大規模迷宮探索組のうち殆どは無事なんだ」

「だったらその人たちが救出に迎えばいいだけじゃないの?」

「そうしたいのはやまやまなんだがな。見失ったんだと」

「詳しく聞かせてもらえるかしら?」


 ギルドマスターの回りくどい説明に対し、代表してアマンダが的確に突っ込みを入れる。

 「まあ、焦らず聞いてくれ」と彼は後ろ頭をペチリと叩き、話を続けた。

 かつてない大規模探索の進み方は役割がきっちり決められたチーム単位で行われている。

 最初に挑むは階層探索チーム。新しい階に入ると、四つの探索チームが階層全域をくまなく踏破していく。

 他のチームは降りる階段の前または、スペースがなければある程度の広さがある部屋か通路に拠点を作る。

 全部で四つのチームが協力して着実に階層を進めて行く手筈だ。

 四つのチームで全体の三分の一になる。残りの三分の二は補給活動に当てられていた。

 といっても、ずっと補給だと騎士団にとっては修行にならないし、集まった猛者たちは腕試しができない。

 なので、補給活動に当たるチームも4つを一組にして二組作り、順番に入れ換えていく方法を取った。

 当たり前だが、深く潜れば潜るほど、補給路の確保が大変になってくる。


「まあ、そんなこんなで、補給線の限界があるわけだ」

「道が分かっていたとして、40階前後くらいかしら」

「そうだな。最短距離で進むにしろ、途中でモンスターに襲われるし罠も突如発生する」

「よく考えていると思うわ。補給の人たちが一番人数が多いんですものね」

「んだな。慎重な作戦が功を奏し、今のところ犠牲者は一人もいない」


 アマンダとのやり取りがひと段落ついたところで、マスターは顎髭をさすりつつ、すっと目を細めた。

 自然とチハル以外の集まったメンバーの気が引き締まる。

 

「ここからが本題だ。探索チームのうち一つが忽然と姿を消してしまった。場所は41階だ」

 

 マスターの言葉に無言で頷く三人と「ん?」と首を傾けるチハル。

 41階で探索を行い、規定の時間になっても1チームが戻ってこない。そこで該当チームの探索範囲を回ったところ、発見することができなかった。

 次に41階をくまなく捜索したが、彼らが見つからない。

 そこで考えられるのが罠によって彼らが41階から別の階層に移動してしまった可能性だ。

 考えられる罠で最も確率が高いのは「落とし穴」である。アーチボルトらが洗礼を受けた落とし穴は最大2階層落ちることがこれまで確認されていた。

 もう一つは「転移」。これは文字通りの意味で、どこに移動するのか分からない。

 ギルドマスターが転移のトラップに引っかかったと報告を受けたことはこれまで二度しかなかった。

 それほどレアな罠であるが、報告によると一度は同じ階層に転移。もう一例は一つ上の階層に転移したとのこと。


「そんなわけで今は42階と、補給チームを一時的に40階に待機させて探索に当たっている」

「いつからなの?」

「二日前からだ。拠点確保としつつだから、時間はかかるにしろ40階から42階にいるのなら発見されていてしかるべしなんだよな」

「隠し部屋……かもしれないけど、ロストしたチームは護符を持っているのかしら?」


 無言で首を振るマスターにゴンザとアマンダの口からため息が漏れる。

 そんな中、チハルだけはにこにこしたまま、じっとみんなの様子を見守っていた。

 彼女の様子を見たマスターが彼女に問いかける。

 

「チハル。行方不明の奴らのいる場所が分かるのか?」

「ううんと。動いているアーティファクトがあるの。誰かが持っているんじゃないかな?」

「アーティファクトの位置が分かるのか!」

「全部じゃないよ。そのアーティファクトは分かるんだよ」

「何のアーティファクトかは気になるところだが、ありがたい。騎士団ならアーティファクトを持っていても不思議じゃないからな」


 アーティファクトはとても希少で高価なものであるが、国の抱える騎士団ともなれば、いや騎士団だからこそアーティファクトを所持しているはずだとマスターは言う。

 アーティファクトは何も骨董品や記念品というわけではない。実利を兼ねたものだ。

 武器タイプのアーティファクトならば、一流の職人が鍛えた剣よりも鋭く、硬い。更に、アーティファクトによっては追加効果を持つものまである。

 本気の攻略となれば、できうる限り最高の装備で挑むのは当然のこと。

 

「何階層にその動くアーティファクトはいるんだ?」

「47階だよ。わたしじゃ、34階までしか行けないよ」

「アマンダ、ゴンザ、ルチアの三人と協力すればどうだ?」

「アマンダさんたちが怪我しないかな」

「危なくなったら引くくらいなんてことはねえよな?」


 笑いながら「な」と目で訴えるマスターに対し、三人は即頷きを返す。

 

「俺たちはモンスターと戦うのが本職だぜ。心配するな、チハル。いつもの仕事をやるだけさ。いざとなりゃこいつもある」


 ガハハと白い歯を見せながら立てかけたハルバードをポンと叩くゴンザであった。

 一方、指先を額に当てたアマンダが反対側の手をあげる。

 

「47階には私たちが挑む、でいいのかしら。騎士団の人たちは?」

「これから打診してみるが、チハルのことは見せたくないんだよな」

「そうね。47階の人たちも動いているみたいだし、移動されて他の階に……ということもあるわ」

「俺たちでも探してみる、と伝えた方がいいか?」


 アマンダはマスターから目を離し、チハルへ目線を向けた。


「チハルちゃんがそれでよければ。チハルちゃん、私たちと47階まで行ってみない?」

「いいの?」

「もちろんよ。ゴンザも言っていたことだけど、私たちは迷宮を探索するのが主なお仕事だから、道案内とモンスターを鎮めてくれるチハルちゃんがいれば大助かりよ」

「うん!」


 元気よく頷くチハルにアマンダではなくルチアが「任せてくださいっす!」と力強く拳を握りしめていた。

 この後、マスターから騎士団に話を通し、チハルたちも迷宮に潜ることとなる。

 メンバーはアマンダ、ルチア、ゴンザの三人の探索者とチハル、クラーロ、ソルといつもの面々だ。

 迷宮内で夜を明かすことも考慮し、二日分の食糧も準備した。荷物持ちは主にゴンザである。

 もちろん、リュートも忘れずに。

 

 彼女らが迷宮に入ってから数時間で33階にまで到達した。33階にも休憩室があり、そこで一旦休憩を取る。

 ここで一旦疲れを癒し、問題の35階へ挑もうという腹だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る