第073話 開け!開かずの扉!!
俺が、俺こそが、バブちゃんだ……!!
バブちゃんだ……バブちゃんだ……バブちゃ……。
「…………ハッ!?」
「なに呆けてるのよ、白布」
「主様、お加減がよろしくないのでしたら、いったん列を離れてもよいかと思います」
「いや……大丈夫だ。ありがとう」
呆れたり心配したりする声に軽く手を振りながら返事して、俺は気を入れなおす。
「さぁさぁ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ドラゴティップ名物の“開かずの扉”があるのはこっちだよ!!」
客引きの声が高らかに響く、この場所は。
「主様、あちらに!」
「あれか……」
日本人並みにお行儀よく列に並んで進み、ようやっと視界に入る白亜の神殿。
山の麓をくりぬいて造られたその威容の奥に、今日の目的地がある。
かれこれ100年は開いてないという、ドラゴンの宝物庫へと続く“開かずの扉”だ。
「入場料は一人20g! 扉チャレンジは100gだよ! 扉を開けたらその先は、ドラゴンの財宝ががっぽがっぽに違いないぜ!!」
「「うおおおおお!!」」
「おうおう、盛り上げてくれちゃって」
「夢とロマン、にございますね」
「そう。夢とロマンはお金にできる」
「なるほど」
これを悪用するのがやりがい搾取とかだな。
「ちょっと、やめなさいよ。ナナさん、そんなさもしい発想はお捨てなさいね」
「えー」
「えー」
「えー、じゃないの! 観光業としては妥当な値段設定……というか、こんな辺境にもかかわらずこの金額なら相当安めなんだから!」
「ちなみにサウザンド家が管理するなら入場料はおいくらにするおつもりで?」
「50は取るわ」
「なるほど」
「言っておくけど、これでも適正価格なんだから」
それからメリーはきっと……と言葉を続ける。
「なんだかんだ言って、あこぎな商売をすると山のドラゴンが怒るとか、そういう祟りを警戒しているんじゃないかしら」
「あー、山岳信仰、竜信仰みたいな」
怒られない範囲で儲けて、いくらかは還元して、みたいな奴か。
「なんだかんだ100年は仲良くやってるんだもんな」
「100年……歴史を感じる数字にございます」
「ドラゴンにとっての100年が、どれくらいの長さなのかはわからないけどね」
少なくともこの村の人々はこの扉と、ひいてはその向こうにいるドラゴンのことを思い続けて今日までやってきたわけだ。
「パッと見、特に信仰してるとかいう雰囲気はないんだがな」
「それだけ人々の暮らしの中に、自然と染み込んでいるのでしょうね」
「ああ……そうか」
信仰が生活に根付いているっての、日本的でちょっと懐かしい気がする。
(ガイザンより治安がいいのも、あながち竜が見守ってるから、なんて面もあるのかもな)
ドラゴン様が見てる。
「はいよー、いらっしゃいお客人。入場料はこの帽子に」
「三人分な」
「……まいどありっ」
ゆるっとした雑談をこなしているうちに、いよいよ神殿の中へと入る時が来て。
(さぁ、お前の出番はもうすぐだぞ『マスター・キー』!)
俺は手に入れたアイテムをお披露目する瞬間を思い、ワクワクしながら先へと進むのだった。
※ ※ ※
「はい、ここから先に入るなら100gだよ」
「三人分な」
「……まいどありっ」
神殿内部……のさらに奥。
「へぇ、これはなかなか……」
「素人目にもわかります。この造形は、間違いなく芸術品だと」
「確かに、こいつはすげぇや」
100g払って近くまで行き見上げるそれが。
「さぁさぁ、これがかの有名なドラゴティップの“開かずの扉”だよ!!」
ドラゴンが堂々と出てこれそうな、めちゃくちゃにでっかい扉だった。
「なんだこの文様。どうやって書き込んだんだ?」
「魔法か、古のジャポン人たちのカガク文明か……そこは結論が出てないそうよ」
「なんと……!」
「詳しいなメリー」
「パンフ買ったの、1gで」
とにもかくにもでっかい扉が、俺たちの前にある。
見上げた首が痛くなりそうなほどの、超超特大サイズはまさに圧巻の一言だ。
「扉にくっついてる緑の透明な球体が、鍵穴の役割を果たしてるみたいね」
「なるほど、あそこだな」
そこは、上げた首をゆっくり下げれば見えてくる。
メリーの言った通りの造りをした部分と――。
「ふんぬぅぅぅぅ!!!」
「がんばれ! 頑張るんだ!! ジョージョ!!」
「ふんぬぅぅぅぅぅああああああ! あっふん」
「ジョージョが倒れた!?」
「立て! 立つんだ! ジョージョーーーーー!!」
――超巨大な開かずの扉を開けようとしている、陽気な奴らの姿。
「我が魔力と鍵杖の力によって命じる! 扉よ開け! 《オプーナ》ーーーッッ!!」
「おおおお、扉が開……かない!」
「ぐっ、バカ……な……ガクッ」
「あーい、魔力不足ですねー。お疲れ様でーす」
腕力、魔力。様々な力でもって扉を開けようと、果敢にチャレンジしていく者たち。
「うおー! だめだー!」
「ぜりゃー! ぐぁー!」
「ちょええええ!! 参ったー!」
「ダーイアボゥー! シーユーネクストナイトメーァ……」
ちょっと見学してるだけでも様々なチャレンジャーたちが玉砕していくのを楽しめ、これはこれでひとつの見世物として面白い。
「いいぞー、やれやれー!」
「次だ、次ー!」
「そこのゴリマッチョー! 私の好みのタイプよー!」
入場料だけ払っている人たち向けに高見席まであるのだから、すべては計算のうちか。
「主様……わたくし、なぜだか緊張してまいりました」
そう言って俺の服の裾をつまんできたナナの頭を優しく撫でてやりながら、俺も自分の心臓が高鳴っているような気がしている。
昨日ちやほやされたのが効いているのか、久しく感じていなかった前世の記憶、配信者として生配信をする前の高揚感を思い出した。
「さぁ、次の挑戦者は誰だ!?」
「俺だーーーー!」
気がつけば、声を高らかに名乗りを上げていた。
※ ※ ※
「俺はレアアイテムハンターの白布! 今日はこの扉をぶち開けて、奥のドラゴンのお宝をゲットするためにやってきた!!」
一瞬の静寂。そして。
「うおおおおおお!! 言い切りやがったー!」
「いいぞー! にいちゃーん!」
「好みのタイプじゃないけど頑張ってー!」
一斉に巻き起こる歓声。
切った啖呵に返ってくる熱量を持った応声が、俺の心をさらに掻き立てる。
「あーあ、これで開かなかったら赤っ恥ね」
「問題ございません。主様はきっと、扉を開かれます」
呆れと信頼の声を背中に受けて、俺はさらに声高に叫ぶ。
「お前たちは今から! 俺のさらなる伝説の目撃者になるだろう!!」
「「おおおおおおお!!」」
あぁ~~気持ちいい~~~~!!
「そこまで言うなら挑戦してもらおうか! さぁ白布! 扉の前へ!」
「おう! ナナ、メリー。一緒に!」
導かれ、俺たち三人は揃って扉の前に立つ。
衆人環視の中、俺は演出過剰を意識しながら、右手を天へと突き上げる!
「《イクイップ》!! 『マスター・キー』ーーーー!!」
それと同時に左手を『財宝図鑑』に触れさせ、アイテムを《イクイップ》!
瞬間、無駄に豪華な輝きと共に俺の右手に現れ、握られる『マスター・キー』!!
(ありがとう、アデっさん!)
演出協力、アデっさん。
面白いこと大好き。
「「わぁぁぁぁ!!」」
わかりやすく派手な演出に、神殿内はさらに沸き上がる。
「いくぞぉぉぉ!!」
手にした『マスター・キー』を、開かずの扉の真正面にある謎の球体へ向けて、突き出す!
触れた鍵先ははじかれることなく球体の中へと沈み、飲み込まれて。
鍵装備適性Aの感覚が、俺に教えてくれる。
(この扉は……開けられる!!)
確信を得た以上、もう、止まらない!
「お、おい。マジか……!?」
「扉が、光ってる!?」
「まさか扉が……扉が開こうと……!!」
最奥まで押し込んだ『マスター・キー』を、横に……捻る!!
ガヂャンッ!!!
重苦しくも、けれどしっかりと響く低音が、神殿内に伝わった。
直後。
「うおおおおおお! 開けぇぇぇーーーーーー!!!」
俺の叫びに呼応して、開かずの扉がゆっくりと、左右にその身を割っていく。
「……あ?」
その瞬間だった。
突如として扉の中から強烈な閃光が奔り、俺の視界が真っ白に染まる。
あまりにも強すぎる光の奔流に思わず目を閉じれば。
「……っ!」
いつぞやの、うねうね銀河ゲートを越えた時と同じように。
「ここは……?」
俺は、どこか違う場所へと転移していた。
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