第056話 その名はメリー・サウザンド!



「私の名前はメリー・サウザンド! アリアンド王国にその家ありと言われた武門の名家サウザンド家の長女よ! 私の家は今危機的状況下にあって大量のお金が必要なの! それを解決するためには難度の高いダンジョンに挑まないといけない! だから貴方のように力を持った冒険者の協力が必須で、私はその依頼をしたくて貴方のもとを訪れたのよ!!」



 魔法使いちゃん、こと、メリー・サウザンド嬢がやけっぱちの勢いで告げる自己紹介。

 この時点でもうツッコミどころは満載なのに。



「ちなみにお父様の許可を得ずにここに来ているから、今頃私を探して追っ手が来ている可能性だってあるわ! 私に関わった以上、そいつらからの接触もあるかもしれないわね!」



 名家のお嬢様! 危機的状況! 試練ダンジョン! フラグコンプリート!!

 おまけに知らなくてもいい情報まで掴まされて、もうお腹いっぱいである。



「ふざ、おま、っざっけんなーーーー!!」


「なによー! こうなったのはあなたがちゃんと話を聞こうとしないのが原因でしょーー!?」


「ちゃんと話を聞いたら聞いたで結果は同じだろうがーー!!」



 叩きつけられた情報に俺が爆発すると、相手も同じように爆発する。


 あーもぅめちゃくちゃだよ。



(こんな厄ネタいったい誰が受けるってんだよ。追い込まれ貴族からのダンジョン探索依頼だぞ。どんだけ無理難題が……)



 ん?



「……ちょっと待て。今ダンジョンって言った?」


「え? あ、うん。そうよ。実家から持ってきた地図に書いてあるダンジョンの攻略を……」


「ダンジョンって、あのダンジョン? 踏破した者にお宝とか授けちゃう系の」


「ええ、それよ」


「ダンジョン内に罠やモンスターもいるけど、お宝いっぱいレアアイテムいっぱいの!?」


「そう! それ!」


「うおおおおお!!」



 前言撤回!

 ダンジョン、ダンジョンか!



(ダンジョンは、いい!! レアアイテムの宝庫だ!)


「主様?」


「ナナ、ダンジョンだ! ダンジョンはロマンだぞ! 俺の旅の目的であるレアアイテムコンプにも大いに役に立つ!」



 モノワルドにもあったのか、いや、あって当然だよな!



(うおおおお! ダンジョン攻略!)



 絶望の中に希望が見えた!

 これはちょっと、盛り上がる展開になってきたぞ!!



「なんだよははは、依頼主様メリー様。そういうことなら早く言ってくれればよかったんだ」


「言わせなかったのはあなたでしょう?」


「過去の事は水に流そうじゃないか!」


「えぇ……」



 勢いだろうが何だろうが、とにかくごまかして話を繋ぐ!

 こんなおいしそうな依頼、逃がすわけにはいかないからな!!



「それでダンジョン攻略の暁には、俺の取り分はダンジョン内のお宝で――」


「ダンジョンの所有権は現在サウザンド家が持ってるから、中身は全部私のってことで」


「………」


「レアアイテムハンターならアイテムに関わる取り逃しはきっとないわよね、期待してるわ!」


「は?」


「ん?」



 キョトンとこちらを見つめるメリー・サウザンド嬢――いや、メリーでいいかこいつは――に、俺はゆーっくり深呼吸して気を落ち着かせ、さらにもういっちょ息を思いっきり吸ってから。



「誰が受けるかそんな依頼ーーーー!!」



 全身全霊をもってツッコミを入れた。



 ………

 ……

 …




「……あー? なんじゃこりゃ。ナナ、わかるか?」


「いえ、その……わたくしは圧倒されるばかりにございます」



 お茶と菓子を持って戻ってきたドバンにも気づかず、俺はメリーと口論を続ける。



「ダンジョンよダンジョン! レアアイテムハンターの血が騒ぐんでしょ!?」


「……そこで手に入れたアイテムの所有権は?」


「…………私」


「だ・か・ら! 誰が受けるかそんな依頼ーーーー!!」



 この依頼を受けて、受けないの不毛なやり取りは。



「なんでよ! 受けてくれてもいいじゃない!!」


「その内容が、無理難題ってレベルじゃないんだっつーのー!!」



 その後、小一時間ほど続くのだった。




      ※      ※      ※




「だーっはっはっは! そりゃお前の負けじゃよ、白布」


「ぐぇー……」



 突如として舞い込んできた厄ネタお嬢様、メリー。

 彼女との小一時間に渡る口論は、事情を把握したドバンの爺さんにより判定が下された。



「レアアイテムの情報に釣られてここに招き入れた時点で、お前にゃ話を聞く以外の選択肢がないんじゃ。今更駄々をこねてももう遅いじゃろうて」


「ふふんっ! ほらご覧なさい!」


「うぐぐ……」



 まったくもっての正論に、返す言葉もない。

 逃げることもお役所対応もできたのに、やらなかった結果がこれなんだしなぁ。



「おいたわしや、主様……」


「俺の心を慰めてくれるのはお前だけだよ、ナナ」



 ナナに頭をよしよし撫でて慰めてもらってから、俺はソファに背もたれ大きなため息をつく。

 意気消沈する俺に対し口論に勝利したメリーお嬢様は、ナナ以上ミリエラ未満に見える胸を張り、それはそれは見事なドヤ顔を決めていた。



「さぁ。これで問題なく、私の依頼を受けてくれるわよね?」


「ぁー……そう、だなぁ」


「おーっほっほっほ! ならこれで決まりね!」


「ぐぬぬ……」



 身から出た錆とはいえ、こうも勝ち誇られるとなんか意趣返ししたくなってくるな。

 いっそ依頼受けたフリしてお宝横からかっぱらうか?


 さすがにダンジョンのお宝全部持ってかれるのは辛いぞ。

 メンタル的にもコレクト的にも!



「さぁ、契約書を作るわよ!」


「いいや、それは待ったじゃよ。嬢ちゃん」


「「!?」」



 予想外の人物からの待ったに、俺とメリーは奇しくも同じ驚き顔を浮かべる。



「どういうつもりかしら?」


「そのまま契約すると、お互いに禄でもないことになるぞと言うとるんじゃよ」



 もはやこの場は私の物。

 そんな雰囲気を醸し出し、話を進めようとするメリーを止めたのは、ドバンの爺さんだった。


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