第020話 財宝図鑑の中の人?



 前回までの! センチョウ様は!!


 高難易度スネークミッションを達成したと思いきや、事故から始まる命の危機!

 あわやこれまでというところで突如として現れる『財宝図鑑』!

 光に包まれ気が付くと、見知らぬ場所で、見知らぬ美女に声をかけられているのであった!


 一体ここはどこなのか!

 目の前に立つ灰青の短髪に蒼い瞳を持つ、赤のボディコン制服がよく似合う美女は誰なのか!


 九頭龍千兆様の運命やいかに!!




「……と、いう流れでございます。千兆様」


「わかりやすい説明ありがとう。天使さん」



 ざっくりと、あらすじ調にここに来た経緯を教えてくれた目立つ格好の天使さんへ礼を言う。

 天使の翼は持ってないが、俺を前世の名前で呼ぶあたりからして、ゴルドバ爺の関係者なのは明らかだった。


 っていうか説明の時と素に戻った時の落差が激しい。スンッてなった。



「で、見知らぬ場所で出会った見知らぬ美女さんは、俺に説明してくれるってわけだよな?」


「ええ、もちろんです。千兆様。その成長途中の美味しそうな……ごほん、未来ある御身でもしっかりと理解できますよう、ご説明させていただきます」


「おい、今美味しそうって……」


「ご説明しましょう」


「………」



 スッと向けられたアルカイックスマイルに、背筋が震える。


 はい! これはあれだな! 触らぬ神に何とやら案件!

 ノータッチ! ノークエスチョン! ノーリマインド!


 説明を聞こう!



「千兆様がいらっしゃっているここは、財宝図鑑の中にある、現世とは時を等しくしない特殊な空間にございます。名を『宝物庫』。見た目には博物館のようでございますが、それは財宝図鑑がコンプリートを目的としているからでございますね」



 見回してみれば、なるほど、確かに色々な物を展示できるようなスペースが用意されている。



「そして宝物庫の役割はもちろん、千兆様が獲得なさったアイテムを管理、保管することでございます」


「なるほどな」



 この場所については把握できた。

 だから次は、当然の疑問を天使さんにぶつけることにする。



「じゃあどうして今、俺はここに来ているんだ? ピンチだからって助けてくれたのか?」


「いいえ。首コキャメイド様との遭遇と現状には、そこまで関連性はございません」



 首コキャメイド。すごい物騒だけど何も間違ってない呼称だ。

 軍人っぽい口調で話してたのも相まって、あの人からはエージェント味を感じる。 



「じゃあ、なんで?」


「はい。こちらにお招きいたしましたのは、さきほど千兆様が最初のレアリティSR以上の道具を入手し、装備なさったからでございますね」



 淡々と説明しながら、天使さんはおもむろに右手をアテンションプリーズと持ち上げる。

 そこにふわりと光を纏って、青い石が填め込まれた指輪が姿を現した。


 俺がついさっき都市長の寝室から窃盗……勇者行為して手に入れたアイテムだった。



「SRアイテム『真偽の指輪』。適性C以上の装備者に、他者の真意をぼんやりと読み解く力を与える指輪にございます。ちなみに適性A以上ございましたら、道具に込められた虚実すら見抜けるようになりますよ」



 俺も知らない道具の効果を、彼女は当たり前のように諳んじる。



「そしておめでとうございます。条件達成で新機能がアンロックされました」


「え?」


「これより千兆様の所有しておられるアイテムは、いつでも宝物庫から出し入れすることができますので、存分にご利用ください。装備も自在にございます」


「マジか!?」


「マジのマジでございます」



 そう言うと天使さんはゆっくりと頭を下げ、一礼した。



「改めまして、名乗りを上げさせていただきます。私の名前はアデライード。財宝神ゴルドバに仕えし天使にして、千兆様の財宝図鑑が有する宝物庫の管理者代行にございます」



 そうして見せた彼女の笑顔が彫像のように綺麗で、俺はさっきと違う意味でぞくりとした。

 動揺を何とか取り繕おうとして、俺は浮かんだ疑問を天使さん、アデライードに投げかける。



「代行なのか」


「宝物庫の正当な管理者は千兆様ですから。私はその業務を代わりに実行しているだけです」


「なーるほど。それもそうか、ははは」


「では、説明を続けさせていただきますね」


「ははは、はー……」



 ああ、なんか取り繕う必要なかったかもしれない。


 まるで感情なんて持ち合わせてないとばかりに、変わらぬテンポでアデライードは説明を再開する。

 俺はそんな彼女の所作にどこかゲーマー的既視感を覚えながらも耳を傾けることにし――。



「おや、BGMがご必要でございますか? でしたら素敵なコーラスを……」


「やめやめろ! せっかく答え出さないようにしてんだから! うおおお、それっぽいのを流すな! スタァァァァァップ!!」



 アーアー↓アー↑アーとかめっちゃ美声なレディソプラノボイスなんて聞こえません!

 っていうかこういうお茶目っぽいところも似てて困るんじゃい!


 この手の空間にいる美人ってのは誰も彼もこんな風なのか!?

 クールとお茶目の振れ幅がデカすぎる! へっ、おもしれー女。


 俺の情緒がぐちゃぐちゃである。



「こほん。お遊びが過ぎましたね。現状、千兆様は非常に危険な状態にございます」


「っと、そうだそうだ。俺、ランダムエンカウントのエフオーイーで超ヤバいんだった」



 新機能開放と新しい出会いで浮かれている場合じゃなかった。


 首コキャしようと俺を狙っているメイドエージェント問題。

 バッドラックとダンスっちまった結果の、バッドエンドどころかデッドエンドフラグである。



「このまま戻っても、ぶぅぅぅん、ガシ、コキャッ、だよなぁ……」



 さっきアデライードがここは現世とは時を等しくしないとか言ってたし、本もワープしてたっぽいし、いっそのことちょっと離れたところに出してもらえたりしないだろうか。警備の人がいる詰所とか。



「いえ、厳密に言えばここにいるのは千兆様の心だけで、体はまだあっちにございます」


「マジで!?」


「マジのマジでございます」



 俺の体、絶賛ピンチ継続中。



「うおおおん。やっぱ対策必須かぁ……」



 頭を抱えて考える。


 とりもあえずもノルドさん。

 あの人、仕上げがどうとか言ってたし、やっぱどっかの組織の裏工作員とかなのかねぇ?

 そうなると、ただあの場から逃げるだけじゃ終わらないよなぁ。


 でも。



(8才にしてガチの対人戦デビューは、さすがにまだ早い。せめて成人してからがいい)



 リアルな命の奪い合いとか、いずれ必要だとしてももうちょっと心の準備をさせて欲しい。

 ここはどうにか話し合いにもってって、お互いクールにサヨナラしたいもんだが。


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