第018話 都市長夫人の甘い罠?!(すやすや)
抜き足、差し足、忍び足。
深夜の都市長邸を、俺は気配を殺しながら進む。
「ふぁ~あ……」
「!? ……っぶね」
見回りのメイドさんから身を隠したりしながら、少しずつ、少しずつ。
目的地である都市長たちの寝室へと向かっていく。
(さぁ、待っててくれ。俺の魅了耐性向上の指輪ちゃん!)
都市長が装備するほどのものならば、間違いなくミリエラからの魅了には耐えられる。
俺は野望のため、未来の安全のため、悪の道を邁進していた。
※ ※ ※
「……ここが、都市長たちの寝室か」
俺はそろっと、音を立てないように気をつけながら扉を押す。
「んごごごご……ぴゅるるるる……」
「すやすや」
豪奢な作りの部屋の奥、キングサイズのベッドの上で、都市長夫婦が眠っていた。
(よしよし、安眠してる。より良い装備でより質の高い睡眠体験を、ってやつだな)
貴族様なんだからいい物着てぐっすり寝ているに違いないという俺の読みは当たっていた。
おかげでもうちょっと派手に動いても大丈夫そうだと、俺は部屋の物色を始めた。
(とはいえ、目当ての品以外は興味なしっと……)
目的の物である魅了耐性向上の指輪を探す。
部屋にある机の引き出しの中、クローゼットの中とあれやこれやと探し回り。
「……やっぱあそこか」
最後に視線を送ったのは、夫婦が寝ているベッドについた、枕元の小さな収納スペース。
目覚まし時計や魔法のランタンがある場所の、隣に置かれた豪奢な飾り箱。
箱のサイズや手に届きやすい場所にあることからも、ほぼ間違いない。
(あの中に、俺の目指すお宝がある)
俺はゆっくりと、最大限に足音を殺してベッドに近づいていく。
逸る気持ちを抑えて一歩ずつ、ゆっくり、ゆっくり……。
「ん、んん……」
「!?」
夫人が寝苦しそうな声を上げたところでビタッと動きを止めて様子を見る。
布団を払った夫人は薄いネグリジェ一枚だけを纏った姿で、柔らかそうな肉付きの二の腕や太ももを惜しげもなく星の光の下に晒している。
つい数時間前まで楽しく談笑し、言葉の端々から知性を感じさせていた女性の、あまりにも無防備な肢体がそこにはあって。
(……エッッッッッッ)
俺は、思わず傍へと近づいて、まじまじと見てしまう。
(体が勝手に……って奴だな)
これはあれだ、ギャルゲー共通ルートで手に入るちょっとセクシーなCGだ。
「うっわぁ、これが熟した女性の体か……すげぇな」
だが俺の目の前にあるのは本物の女体だ。2Dでも3Dでもない実体である。
モチモチしてそうな腕の肉はもちろん、あられもなく晒されている太もものムチムチ感ときたらもう、8才の体であっても否応なくドキドキしてしまう。
それに濃い生地で作られたネグリジェの向こうには、今も呼吸に合わせて上下する、豊満なバストが隠されているのだから、これはもう魅力という名の暴力だ。
こんな女性の旦那に選ばれた都市長さんは、間違いなく幸せ者である。
(……しかし、当然といえば当然だが、ミリエラやカレーンとは違うなぁ)
さっきまで、部屋のベッドで二人に抱き着かれていた感触を思い出し、改めて女体の神秘を実感する。
ぷにぷにの柔らかさと、むっちりとした柔らかさ。
正直どっちも魅力的であると言わざるを得ない。
世の大多数の男がこれらを秘宝だと断言するのも納得である。
レアアイテム蒐集を人生の大目標に掲げた今世の俺ではあるが、やっぱり、ギャルゲーみたいな恋を楽しんだりするのもいいんじゃないか、なんて思い直したくなってくる。
「……って、そうだ。アイテム……!」
ハッとして、正気に戻った。
恋愛も何も今その流れに従えば、俺の人生ハッピーバッドエンド確定なんだっての!
(あくまでメインはレアアイテム蒐集! ヒロインの恋愛スチル回収は、その次だ!!)
夫人の傍まで来ていたおかげで、小箱まではもう目と鼻の先だった。
(あと少し……!)
ベッドの縁に膝を乗せ、身を乗り出して箱に手を伸ばす。
あとほんのちょっとで手が箱に届く、その瞬間だった。
「んうー……」
「は? うおっ……!?」
ぬるっと伸びてきた腕に絡めとられて、俺の体が一瞬で引き寄せられる。
直後、背中に感じるモチっとした柔らかさと、人肌特有の温かさ。
「んー、あなたぁ……」
「!?!?!?」
俺は、都市長夫人の抱き枕にされていた。
「温かいわぁ……それに、抱きしめやすいサイズ感……むにゃ」
(ひ、人違いでーーーーす!!)
下手にジタバタすることもできない!
起こしてしまえばこのたった一度のチャンスが無駄になる!
「んふぅ」
(うおおおおおお!!)
決して、この柔らかさと心地よさをもっと堪能したいわけではない!
(やばいやばいやばい。どうする? これ見つかったら将来的なミリエラどころじゃなく即バッドエンドじゃねぇか!)
ここまで深く入り込んだ状態では言い訳のしようがない。
夫人も、都市長も、どっちも起こさないでこの状況を突破しなければ、俺に未来はない!
「う、おおお……」
「ダメよあなた、逃げたらダメ」
ぎゅううう。
「ふん、ぬぅぅぅ……」
「うふふ。いつもは自分からいっぱい抱き着いてくるのに、今日は私を誘っているの?」
ぎゅっぎゅっ。
「押してダメなら、引いて……」
「そう、そうよ。身を委ねて。あなたはいつもいっぱい頑張ってるんだもの。私で癒されて、ね?」
むぎゅーー。
「………」
やだー!
あのぽっちゃり中年の裏の顔なんぞ知りとうないーーー!!
二人っきりの時は嫁さんに甘えまくってるとかそんな情報は知りとうなかったーーー!!
色々と限界が来た俺は、最終手段を試みた。
(うおおおおおおお!!)
「あんっ!」
体を捻り、その勢いを利用して拘束を抜ける!
押しても引いてもダメなら、多少のリスクを覚悟しての強硬策だ!
「ん、ンン? ん? あら?」
刺激の強さに、夫人が目を覚ます。
俺は彼女の視線から、床にべったり寝そべることで辛くも逃げおおせた。
「んん、あなた……ん」
布団を自分で剥いでいたことに気づいた夫人は、それを被ると同時に愛しの旦那様にしがみつく。
そうしてしばらく、寝息が2つになったのを確かめてからようやく俺は立ち上がった。
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