第015話 狂気! 全裸三兄弟!!
「おうおう、慰謝料だ。お前の持ってる有り金全部ぅ、寄越せガキぃ!」
「詫び入れろやガキぃ!!」
「そうだそうだ!」
「ひっ……」
いよいよ恫喝し始めた兄貴とやらに狙いを定め、俺は手の平を向け、静かに呟く。
「《ストリップ》」
呪文と共に振るう手に、何かを掴む確かな感触を得れば、それを一気に引き寄せる!
「さぁ、大人しく言うことを聞きやがれ!!」(U)
結果。俺の手に握られていたのはマントと頭巾、グローブ、そして……ホッカホカのビキニパンツ。
(なるほど。頭巾にマントにビキニパンツは、見事な不審者3点セットだ)
なんでこんなあからさまな装備を、と考えたところで、思い至る。
(そりゃ、一番いい性能引き出せるのを装備するよな……)
ちょっとだけ、装備適性世界の闇を見た気がした。
「おうおう、兄貴のビキニパンツ適性はBなんだぞ! 兄貴のビキニパンツ……」
「そうだそう、だ……」
「おう、どうした。もっと言ってやれお前たち」(U)
「…………」
すべての装備を剥ぎ取られた兄貴とやらは今、まごうことなき全裸だった。
「あ、あ、兄貴のビキニパンツが象さんにぃ~~~~~!?!?!?」
「そうだそうだぁぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ? お前ら何言って……おああああああなんじゃあこりゃあああ!?!?」(U)
驚きの声と同時にぶるんぶるんと揺れる兄貴の象さん。
今彼はパンツという名の密林から脱出し、自由にサバンナを駆け抜けているのだ。
ミリエラがキャッて言ってこっちをチラチラ見てくるのはスルーあるのみ。
今はそれより、俺のストレス発散の方が先だった。
闘争衝動は、なにも拳による対話だけが解消手段ではない。
というか、装備を剥ぎ取ったとはいえ大の大人に素手で挑んで勝てる気はしない。
いや、勝てるかもしれないが試したことがないのでここでは頼らないと言った方が正しいか。
(他にやりようは、たくさんあるんだからな!)
まだまだ未熟な8才児でも、成人済みの大人を気持ちよくぶちのめす、必殺技がある。
それは――――言葉だ。
「……ほいっと」
レアでもないおっさんの脱ぎたてホカホカ装備など《イクイップ》したかない。
俺は手にした装備一式を地面に投げ捨ててから、大きく息を吸い。
「……ご町内のみなさぁぁぁぁぁぁぁん!! ここに全裸の変態がいまぁぁぁぁぁぁぁす!!」
大音量で、通りを行く皆々様に向かい、声を張った。
「ええ、全裸の変態!?」
「な、なんだってぇ!?」
「どこ! 全裸の変態どこ!!」
「シャッターチャンスだ!!」
ざわめき、この装備至上主義の世界で非常にレアリティの高い変態がいるという抗いがたい魅惑に誘われ、一気に野次馬が集まってくる。
っていうか妙に全裸の変態に対して関心高くないか町の人。普通に怖いっ!
「兄貴! あそこに兄貴の服が!!」
「そうだそうだ!」
「まじか! っていうかあのガキが何かやりやがったんだな!?」(U)
ぶるんぶるんぱおーん。
「セン君、あっちは任せてね」
「よろしく」
混乱に乗じ囁き声だけ残して動き出すミリエラを見送る。
何を任せたか実はよく分かってないのだが、ミリエラは有能なので気にしない。
「さぁて、どうしてやろうかな?」
俺は男たち3人と向かい合い、にんまりと笑ってみせる。
そして。
「兄貴さん一人だけが裸なんて、不公平だよな?」
「は?」(U)
「へ?」
「そうだそうだ? ……あ、ちょっと待っ」
同意も得られたし、俺はやる。
「おおおおおお! 《ストリップ》! 《ストリィィィィップ》!!」
「「ぎゃーーーーーー!!」」
全裸三兄弟、一丁上がり!
だがしかし、俺のターンはまだ続く!!
「みなさぁぁぁぁぁぁん! あそこでぇぇぇぇぇぇす!! 全裸三兄弟がいまぁぁす!!」
奪った装備を捨てながらもう一回声を上げ、ダメ押しに野次馬連中を呼び込んでやる。
こうなったらもうお祭りだ。1分もしないで彼らの全裸と象さんは衆目の的である。
「やばい、やばいよ兄貴ぃ!」(U)
「そうだそうだ!」(U)
「ちぃっ! どうしてこうなった!? ず、ずらかるぞ!!」(U)
顔面蒼白になった男たちは慌てて自分の装備を回収すると、三人仲良く路地の奥へと一目散に逃げていく。
「おお、あれが全裸の変態! いい体してるなぁ」
「ああん! お尻しか見えなかったわ!!」
「ひゃー、やっぱり春って季節は人を狂わせるねぇ」
「いいお尻をありがとう! 全裸三兄弟ーーーー!!」
そんなゴロツキたちの遠ざかるプリケツを見送る、やっぱりどこか全裸の変態に対する関心が高い町の人々のあいだを縫って、俺も退散する。
人の群れを抜けて通りに脱したところで、俺は一仕事終えた心地で大きく伸びをした。
胸のモヤモヤは晴れ、健やかな心地だった。
(あぁー、大声出してスッキリした。《ストリップ》の精度も上々だったな)
プリケツ全裸兄貴たちには申し訳ないが、俺の八つ当たり相手にされたのは不運な事故だったと思ってもらいたい。コラテラルコラテラル。
おかげで俺の頭はだいぶんスッキリし、さわやかな気分になった。
(とりあえず、ゴルドバ爺にまた会う機会があれば、パンチの一発でもくれてやる)
おそらくだが、適性に関しちゃバランスギリギリのところにしてくれたんだろう。
真実がどうあれ、今の俺はそう結論付け、それを信じることに決めた。
(そうだ。悩んでいても始まらない。コンプの道も一歩から、行動あるのみだ)
途方もなく高い山だってのは元より承知のコンプ道。
俺はまだ、この長い坂道を上り始めたばかりなんだ。止まるんじゃねぇぞ、俺!
「装備適性Cがなんだ。速攻でB以上にしてやらぁ!!」
ミリエラの魅了対策と同じくらい問題解決の糸口がないが、それでも俺は意気高く覚悟完了する。
「セン君、こっちこっち」
俺を別の路地へと手招きするミリエラと、その隣に立つ小さな……同い年くらいの女の子。
ミリエラに手を振り返しながら、俺も二人が待つ路地裏へと足を進める。
「セン君セン君。この子がさっき絡まれてた子だよ。どさくさに紛れて助けてあげたの」
「あの、その、ありがとうございますっ」
「……ほぉー?」
礼儀正しく頭を下げる女の子を目にしながら、俺は違和感を覚えた。
(これは、まさか……?)
今の俺が抱えている、ミリエラの魅了対策と装備適性の向上という、2つのミッション。
それらの問題解決へと至る筋道は、意外にも、すぐ近くに転がっていた。
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