第002話 ネクストライフ、スタート!



「おぬしに渡すチート、その名は……《ストリップ》じゃ」


「………」



 ストリップ。


 楽曲に合わせて脱衣するやつ、またはその様態をとっくり鑑賞すること。だいたいエロい。


                           byウェキペディア



「一番いい装備をおくれよぉぉぉ!?!?」



 脱いじゃダメじゃん!

 むしろ弱体化じゃねぇか!!



「ほっほっほ」


「ほっほっほじゃねぇんだよなぁ爺様よぉぉーーー!?」



 ゴルドバ爺様のあご肉を髭ごとタプタプしていたら、近くの天使のお姉さんに引っぺがされた。


 くそっ、最高の手触りだったぜ。




「まぁまぁ、焦るでないぞマイフレンド」


「誰がマイフレンドだ誰が。で、脱ぐ能力がなんでチートなんだよ」


「《ストリップ》は確かに装備解除の呪文じゃ。じゃが、それは何もお主自身に限ったことではない」



 にやりと、ゴルドバ爺が笑った。



「《ストリップ》はの。指定した相手の装備を強制的に解除できる魔法なのじゃ」


「……はっ? ガチのチートじゃねぇかそれ!?」


「しかも解除した装備はおぬしの物になるし、部位指定もできる」


「うおおおおおお!! 愛してるぜマイフレンドーーー!!」



 ゴルドバ爺様のあご肉をまた髭ごとタプタプして、今度は天使のお兄さんに引っぺがされる。



「一番いい装備っていうか、装備が至上のその世界じゃガチ最強技だ」



 装備することで恩恵を得られる世界において、装備を奪われることの意味、奪えることの優位は、考えるだけでそれがどれだけ恐ろしいものなのか想像に難くない。


 コンプリートを目指す上でも、超有能な呪文なのは間違いなくて。



「まさにチート、神の御業」


「ほっほっほ、気に入ってもらえたようで何よりじゃ。もっとも、転生して記憶を取り戻すのは5才になった時じゃがの」


「え、なんで?」


「あの世界では5才になった時、《イクイップ》を使えるようになるからじゃ」


「なーるほど」



 要はそこをトリガーにして、俺の第二の人生が始まるわけだ。



「それに、0才児で記憶を継承すると、動けんのまーじで苦痛じゃぞ。拷問じゃぞ」


「うっへぇ。確かに勘弁だ」



 色々と俺の心に優しい仕様なのには感謝しかない。



「あとはいくらか器用にしておいてやるでの、存分に己の可能性を模索するとよい」


「何から何まで至れり尽くせりで助かるよ。何企んでるか知らねぇけど」


「ほっほっほ」


「はっはっは」



 触らぬ神に祟りなしだ。



「ところで、その《ストリップ》ってやつ、試したりできない?」


「ほ? そうじゃな。実際に一度やってみるのもよかろう。ほれ、使えるようにしたぞ」


「おっしゃ! そんじゃあさっそく――」


「うむ、そこの天使の身に着けている腕輪……を?」


「――《ストリップ》!!」



 だが、これくらいの冒険はやらないと、アイテムコンプなんて夢のまた夢だろ?



「……なんと」


「なるほど。これが《ストリップ》か」



 俺の手にあるのは、長く手触りのいい一枚の布。



「……見事じゃ、九頭龍千兆」



 それは、ゴルドバの爺さんがくるくると巻いて身にまとっていた、一張羅だった。




「っっっ!? きゃーーーー!?」



 天使のお姉さんが叫びをあげる。


 そりゃそうだ。


 ゴルドバの爺さんは今、全裸である。


 2m前後の巨躯に対してとってもかわいい象さんが、丸出しなのである。



「ほっほっほ。まさかこのわがはいに対して《ストリップ》を行うとは」(U)


「ゲーム序盤に会える強いNPCの装備をはぐのは、アイテムコンプの王道なんでな」


「なるほどなるほど! それは道理じゃ!」(U)



 はははと談笑する俺とゴルドバ爺(全裸)。

 そこに声をかけてくる、天使のお姉さんとお兄さん。



「ゴルドバ様、ゴルドバ様!」


「なにかな?」(U)


「そのUを、Uをお仕舞いください!」


「ほほう?」(U)≡(U)


「ああー! ゴルドバ様! そんな体をお振りにならないで! Uが! Uがぶらぶらです! ああー! おやめくださいゴルドバ様! Uが! ああー! ゴルドバ様おやめください!」



 うわぁ、なんだか大変なことになっちゃったぞ。



「わがはいに、何も恥じることはない」(U)


「「ちったぁ恥じろこのセクハラ親父がぁ!!」」


「ぶふぅっ!?!?」(U)



 ついにはダブル天使の見事なパンチが炸裂し、ゴルドバ爺が床を転がった。



「えーっと、返そうか?」



 さすがになんだか申し訳なくなって、奪った布を返そうとしたが。



「ふっ、それはもうおぬしの物じゃ。来世に持っていくがよい」(U)



 と、ゴルドバ爺からキメ顔でお墨付きをもらったので、ありがたく頂戴することにする。

 くれるってことはきっと何か力があるに違いないし。



「それでどうじゃ、実際に試してみての?」


「ああ、思った以上に感覚的に使えるし、なんていうか、馴染むな」


「モノワルドの人々が《イクイップ》を唱えるのと同じくらい、自然になるようにしたからの」


「そっか。本当にいろいろ親切にしてくれてありがとうな」



 寝そべって象さんを隠したゴルドバ爺(そうしないと天使たちの袋叩きに合うため)に、改めて感謝する。

 もう話すことは尽きたかなと思っていたら、相手もそれを察してくれた。




「さぁ、第二の人生の始まりじゃぞ。覚悟はよいな?」


「もちろん。ここまでされた以上、俺は全力でコンプを目指すぜ」



 この先どんな困難が待ち受けているかわからない。


 だが、最強の武器チートと生きる目標をもらった以上、俺に進む以外の選択肢はない。



「ならば行くがよい、九頭龍千兆! 新たな世界、モノワルドを駆け巡るのじゃ!!」(U)



 立ち上がったゴルドバ爺の叫びとともに、俺の体が光に包まれる。


 俺は託された財宝図鑑と奪った神の布を手に、瞳を閉じる。



(モノワルド……俺はそこで、頂点を目指す!)



 心の中で覚悟完了したその直後。

 俺の意識は光に溶けて、新たな人生に向かって飛び出したのであった。




      ※      ※      ※




 イスタン大陸南部のとある孤児院。



「あらあら、こんな雪の日に。マザー、マザー!」


「はーい。ええ? その子、もしかして……!」


「うん、捨て子よ。でも、いい布にくるまれてるし、これ、本?」


「どこか良家の……訳ありな子かしら」


「どうするの、マザー?」


「どうするもこうするもないわ。ここに来た以上、私たちが面倒を見ましょう」



 その日、孤児院の前にゆりかごに入れられ捨てられていた子供がいた。



「まっ。ネームプレートまであるわ。やっぱりこの子、訳ありの子ね……」


「どれどれ、名前は……センチョウ。そう、あなたセンチョウっていうのね」


「沿岸部あたりの子なのかしらね。不思議な名前」


「きっとご両親に特別な思いがあったのよ。その思い、私たちが引き継ぎましょう」



 優しい老院長に拾われたこの赤子こそ、後にモノワルドを席巻する伝説となるなど――



「あ、笑ったわ。そこそこのイケメンね」


「ふふ、さぁ、温かい家の中へ入りましょうね」



 この時には誰も、予想すらしていなかったのである。


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