異世界ストリップ~俺はレアアイテムをコンプリートして世界を手にする!~

夏目八尋

プロローグ

第001話 ハローヤーヤーニューワールド!



 コンプリート。

 この言葉に魅力を感じない人間は少ないと思う。


 何を隠そうこの俺も、この言葉の持つ魔力に魅せられたゲーマーの一人だ。


 あらゆる困難を乗り越えアイテムを集め、称号を集め、キャラを集めた先にあるもの。

 数多のアイテムが整然と並べられたその光景が。

 数多の人々がこうべを垂れ恭しく礼を尽くしながら、得難き称号の数々を口々にするその景色が。


 その世界を征服し尽くしたと思わせる実感と共に、俺の心を打ち震わせる。




 コンプリート。

 そんな最高の快感を得るために、俺は幾度となく世界を蹂躙した。


 時に裸一貫から始まり、一から道具を作って世界のすべてを踏破しアイテムを回収し。

 時に王から託されたわずかなゴールドを元手に世界を旅し、魔王の手下が低確率で落とす屑アイテムすら余さず集め。

 時に数多の世界線を渡り、様々な美少女との逢瀬を重ねその思い出を完成させて。

 

 多くの世界、多くの時代、多くの物語の中で、俺はコンプリートを重ねてきた。



 そう。



 アイテム図鑑があれば埋め尽くさずにはいられない。

 実績解除のトロフィーとかあったら集め尽くさずにはいられない。

 可愛い女の子の仲間ができれば、いちゃいちゃから愉悦までやり尽くさずにはいられない。


 それが俺。

 九頭龍千兆クズリュウセンチョウだ。




「親の願望が見え見えの名前じゃの」


「じゃかぁしぃわ」



 青い空、白い雲。


 俺は今、雲の上に建つパルテノン神殿みたいなところで神を名乗る爺さんと相対している。

 白磁の椅子に腰掛ける2m超えてそうなビッグな爺さんを前に、俺はこれまでの人生を語って聞かせてやったところだった。



「うむうむ。コンプリート、素晴らしいのう。わがはい財宝神じゃから、その考え方大好きじゃ」


「だろ? 最初名乗られた時から話し合うかもなってちょっと期待してたんだ」



 サンタみてぇなもっさもさの白髭をなでながら笑う、自称神の爺さんと談笑する。

 なんでこうなったかと言えば、俺が若くして死んだからだ。


 前世じゃネット配信者だった俺だが、生放送中にぽっくり逝ってしまったらしい。

 連続120時間休みなしのアイテムコンプ生配信とかさすがに欲張りすぎたようだ。


 今頃あっちじゃネットを賑わせているかもしれないが、まぁ死んじまったものはしょうがない。


 そうして俺を迎えに来た天使っぽいお姉さんに連れられるままやってきたのが、ここだった。

 んで、財宝神ゴルドバを名乗るこの爺さんと知り合って、今に至る。




「で、来世でも同じような生き方がしたいんじゃったな?」


「そうそう。せっかく次の生が選べるってんなら、もっとやりたいこと突き詰めたいってな」


「わかる。ひとつの趣味の奥深さは何百年やろうが飽きないもんじゃよ」



 酒でも用意したらこのまま何時間でも語れそうなくらい、趣味の合う爺様だ。

 そんな爺様がにやりと笑えば、俺に最高の転生先があると言ってきた。



「モノワルド、という世界がある。そこは人が道具を装備して使う世界なのじゃ」


「? 普通じゃ?」



 装備は身につけないと意味がない。持ってるだけじゃ意味がない。

 これまでプレイしたたくさんのゲームで、口が酸っぱくなるほど言われた言葉だ。


 剣は持たなきゃ振れないし、パンツを履かなきゃ大事な部分は隠せない。



「モノワルドは少し違う。呪文を唱えて装備をすることで、道具の力を引き出せるのじゃ」


「……ほほう?」


「その名も《イクイップ》」


「まんまだな」



 ゴルドバ爺の言うことにゃ、《イクイップ》と唱えれば、ずぶの素人が包丁で魚の三枚おろしができるようになる程度には補正がかかるらしい。

 モノワルドに住むヒト種と呼ばれる連中全員に備わった力で、一人ひとりに別個の適性があり、それによって得手不得手が存在し、役割が生まれているんだとか。



「そして道具の力を引き出す能力が一般的ということは、道具そのものの良し悪しもまた重視されるということでの」



 モノワルドにあるヒトの手が入ったものには、すべからくレアリティが設定される。

 どこにでもあるコモンから、伝説に語られしLRレジェンドレア、世界改変すら起こしえるWRワールドレアなどなど、その種類は多岐に渡る。



「適性なくばイクイップすることすらかなわないレアアイテムもあれば、逆に適性がなくとも代償を支払った者に破滅的な力を与えるレアアイテムなどもある。どうじゃ、疼かんか?」


「お、おお、おおお……!」



 ゴルドバ爺が語るモノワルドとは装備が、道具が、つまりアイテムが重要視される世界。


 その世界でアイテムコンプをするということは、即ち、その世界の覇者となることに等しい。



「す、すげぇ……そんな夢みたいな世界があるなんて!」


「分かっておるとは思うが、コンプリートの道は険しい。それでもおぬしは行くのかの?」


「当ったり前だろ! こんな面白そうな世界、挑戦しないでいられるかよ!」


「ふぉっふぉっふぉ! おぬしならそう言うと思っておったわ。では……」



 ゴルドバ爺が手をかざすと、やる気満々の俺の前にでっかい図鑑が現れる。

 そこには漢字ででかでかと『財宝図鑑』とタイトルが書かれていた。



「それにはおぬしが手に入れた、モノワルドに存在するSRスーパーレア以上のアイテムを登録することができる道具じゃ。その書物を完成させた時、おぬしはまさしく、モノワルドの支配者とも言える力を手にするじゃろう」


「うおおおおお!!」



 昂りすぎてさっきから獣みてぇな唸り声しか上げられなくなっているが、許して欲しい。

 さんざん遊び尽くして楽しみまくった色々なゲームのような世界に、自分自身がプレイヤーとして生きることができる。

 しかもアイテムコンプがそのまま世界コンプに等しいこの世界なら、それこそアイテムが揃えば揃うほど、俺はその世界でなんだってできるようになる。

 文字通り人生をかけてコンプリートを目指すにふさわしい世界が俺を待っていると言われて、どうしようもないほどに俺は高まっていた。



「しかも、今ならおぬしに神様特典をプレゼントじゃ」


「マジかぁぁぁ!?!?」



 俺、好き。ゴルドバ、好き。お爺ちゃん、愛してる。

 なんかここまで美味しい話だと裏でなんかありそうな気がするが知ったことじゃない。


 神様が何を考えているかなんて人間にゃ分からないし、気にしたところで意味がない。

 だったらせいぜい、貰えるものを貰って最高の状態で異世界転生する。これよ。


 そんな装備で大丈夫か? もちろん、一番いいのを頼む。



「で、何をくれるんだ? ゴルドバお爺様!」


「うむ。おぬしに渡すチート、その名は……」


「その名は……」


「《ストリップ》じゃ」


「……?」



 え、なんだって?


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