第201話

 「はい、九枝不動産です。空き物件の確認ですね? ええ。黒いマンションですね。まだありますよ」


 「お客様にご紹介します」

 「はい、よろしくお願いします」


 「マンションは一棟まるごと、入居者は入ったままで売却ということでいいんですよね。空き室はありますか?」


 「一部屋だけ空いていますけど、他は埋まってますよ」

 「破格の値段ですよねえ? 事故物件とかじゃないですよね?」

 「あはは! 違いますよぅ。事故物件なんかじゃありませんって。大丈夫、みなさん元気に暮らしていますよ。はいはい、よろしくお願いします」


 カチャッと受話器を置くと、今度こそ飲み込みきれないため息が出た。


 「まあ、我が子のしでかしたこととはいえ、苦労するよね」


 突然、失踪してしまった息子の借金の取り立てが厳しくて、肩代わりして返済した。法的に息子の借金を支払う義務はないってことは知ってるけど、そんなことを気にする相手じゃないからね。


連日ドアを叩かれ、無言電話を一日中かけられては、仕事もできたもんじゃない。なんとか金をかき集め、足りない分は銀行から借りて、全額を返済できて本当によかったよ。ようやく枕を高くして眠れるようになったってもんだ。

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