第190話
もっと早く「モビール」が、あの窓飾りが怨霊たちの依り代だと気が付いていたら、三浦を失わずに済んだだろうか。
「三浦……ごめん」
床にちらばった、硝子のカケラを手でかき集める。砕けたガラスの一片にバラバラになった三浦の魂が入っている。聞こえはしないが、硝子のカケラの中で、三浦が絶え間ない痛みに襲われているのだろうと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
九枝不動産の社長は、モビールを壊してくれ、と言った。しかしモビールを形作っている硝子細工の一つ一つに、三浦や南由のように犠牲になった人が閉じ込められている。そして壊してしまったら、死んだ者は二度死ぬことはできず、いつまでも魂がひきさかれる痛みに苦しむことになるのだろう。
「南由も……」と思うと、そんなことは出来ないと思った。南由は自分を差し出して、俺を守ってくれたのだ。
かき集めたカケラの中から、三浦の右手が硝子を拳で叩いている。壊れた顔の半分が何かを叫んでいる。耳を寄せるが、何も聞こえなかった。
落ちていたコンビニのビニール袋に硝子のカケラを入れた。しかし硝子がビニールを破き、こぼれ落ちてしまった。
「悪い、三浦……」と謝って、落ちたカケラを拾い集める。
「あ……」
カケラの側に、三浦のセカンドバッグが落ちていた。
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