第176話

 「南由、どうしている? そっちでは美味しいもの食べられるのか? 南由が作ってくれた生姜焼き、うまかったなー。また作ってくれ。またな」


 「南由、好きだよ。いつまでも」

 「南由、会いたい。会いたい会いたい会いたい……」


 次々に吐き出されていく言葉達。それは南由が亡くなった後、寂しさに耐えかねて、残されたアカウントに俺が送り続けたメッセージだ。南由に届く訳がない、とわかっていても南由と繋がっていたかったんだ。


 メッセージはまだ流れ続けている。


 「南由の部屋、俺が借り続けることにした。だから南由、ずっと側にいてくれ」


 「火事で焼けた南由の部屋、リフォームして、南由がいた時のまま、元通りにしてもらった。安心して戻ってきて」


 「南由、また会えてうれしい。あの部屋に会いに行くよ。だから待っていて」


 もう南由に会えないなんて、信じられなかった。だから焼けてしまった部屋をリフォームして復元した。


 俺が部屋の改修費と家賃を支払って借り続けたいと、九枝不動産に電話で申し出た時、家主でもある九枝不動産は喜んで了承した。当然だろう。事故物件となった、あの部屋はどうせ、当面は借り手が付かないのだから。そして南由の契約をそのままにして、家賃を振り込み続けた。

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