第134話
彼女は膝を抱きかかえ、体をいっそう小さくまるめて、うつむいた顔を自分の膝にこすりつけるようにして横に振った。
男はチッ、と舌打ちすると、「今まで俺に逆らった事なんかなかっただろ」といって、彼女の胸のあたりを強く突いた。体が傾ぐ。お腹を守る様に抱えていたのでバランスがうまくとれず、体が畳の上にくずれる。
「もっと早く、子宮なんか取っちまえばよかったんだ。法律で認められてんだからな。だけどお前みたいな半人前が、いっちょ前に赤ん坊を孕めるなんて思わなかったぜ。また来るからな。その時までに、腹の中のもんは諦めとけ!」と言い捨て、足音も荒く出て行った。
ひとり家に取り残された彼女が、涙をこぼす。独りぼっちなのに、声を立てないように歯を食いしばり、それでも、うーっと小さな音を漏らしている。
かわいそう……。彼女のお腹の子のお父さんは、あの男なんだ。酷い……!
辛いね。赤ちゃんがいるんだもん、なおさら……。私は彼女を抱き寄せようと手を伸ばした。
それなのに、私の手は彼女をすり抜けて、なぐさめてあげることもできなかった。
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