第133話

 部屋に置かれているチカチカするテレビは、段ボール箱のように厚みがある。それどころか画面に映っている映像は白黒だった。CMに出ている人の服装も古臭い。


 おかーさんは今とさほど変わらない年齢に見えるが、どうやら現代ではないみたいだ。かなり昔。でも、いつなんだろう。自分の夢のはずなのに、わからない。


 おかーさんはお腹をゆっくりとさすって、なにか話しかけている。お腹はまだ膨らんではいないが、妊娠しているみたいだ。


 私は、ああ、と思う。おかーさんには、知的障害があるんだ、とふいにわかってしまったから。


 彼女が子守唄を小声で歌い始めた。しょっちゅう音程が外れて、けしてうまいとは言えないけれど、高音でささやくような歌声は耳に気持ちがいい。聞き入っていると、ザラザラした男の声が割り込んできた。


 「お前には育てられねぇだろう」

 「……いっしょうけんめい……」


 「無理だ。そんなら、もう金は出さねぇぞ。お前みたいなの、出来ることなんてアレ位しかないだろ。それも出来なくなるんだからな」


 「でも……」その後の言葉は続かなかったが、首を強く振った。


 「産むとか育てるとか、そんなこと言うなって。今なら簡単な手術でおろせるから。ちょっと寝ている間にすぐ終わるさ」


 急になだめるような声で、肩を抱いて耳の中に自分の都合のいい言葉を吹き込む。

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