第94話
「確かに……、そうかもしれません。でももうすでに足を突っ込んでいると認識されているみたいなんですよ。……その、得体のしれないナニカ、に。」
「え……?」
「つまり」永里は少し焦れたように俺を睨んだ。「私にも、出たんです。頭痛」
「まさか……だってたとえば、ただの風邪とか偏頭痛とか。あるだろ?」
「南由や潮田さんの頭痛とは違うかもしれないと?」
「そう。だろ? 違うかも」
「違わないんです」
「なぜ」
「なぜ、わかるのか……ですか?」永里は俺の目を見た。そして「聞こえたんです、私にも」と言った。
「え、聞こえたって……何が」
「てんけい、です。だけど、内容は少し違います。南由が欲しい、でもお前はいらない、南由は一緒にいるべき、でもお前は要らない。いいなぁ、南由と仲良しなんでしょ? いいなあ、欲しいなぁ……って。私はいらないそうです。だから大丈夫かなって。私が要らないなら、連れて行かれることもないかと」
「そんな理屈が通じる相手じゃない。もう手を引いた方がいい」
「嫌です」
「危ないだろ? 今すぐ、手を引け」
病院で見た、潮田の上に馬乗りになっている女を思い出していた。あの女の背中は、関わるな、と言っているようだったじゃないか。なぜ女を見たことを永里に話してしまったんだろう。知ってしまったら、もう無関係ではいられないのに。
「今ならまだ」と、言い募ろうとする俺の言葉を遮って、永里は言った。
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