第91話 5
九枝不動産は、駅と国道を繋ぐ一本道の途中にあった。その道路はアスファルトではなく煉瓦で出来ていて、一見お洒落だが、よく見るとあちこちの煉瓦が浮き上がり、ところどころ灰色のコンクリートで修復されていた。
でっぱった煉瓦に足を引っかけて、軽くつんのめる。その拍子に、はぁ、とため息がもれてしまった。
「紘大くん、大丈夫ですか?」
笑いを含んだ永里の声が、横からかけられてもう一度ため息をつきそうになる。永里を九枝不動産に連れてきて、よかったんだろうか……。
潮田の葬儀の日、コンビニの店長がファミリーレストランのテーブルに放りだしていったのは不動産屋のドラ息子の名刺だった。
「マンションについて、これ以上詳しく聞きたかったら、直接聞け」と、そういうことなのだろう。
しかし、九枝不動産に出向いて「あなたの所有するマンションに幽霊が出るのはどういう訳ですか?」などと聞いても、まともに答えてもらえるとは思えない。
どうしたものかと迷っていた矢先に、永里から連絡が来た。しかしもちろん、無視していた。三浦に釘を刺されるまでもなく、永里を関わらせるのは危険だと思ったからだ。だから何度メッセージが届いても、返信は入れなかった。
既読しても返信を入れないことを続けると、五回目か六回目で連絡が途絶えた。諦めたのかとほっと安心したものの、永里とはもう会えないという多少の寂しさを感じていたところだった。そんな俺の気持ちを読んだみたいに、突然、永里が会いに来たのだ。
自己紹介した時に俺が言った勤務先の会社名を覚えていて、終業時間を見計らって出口を見張っていたのだという。
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