第81話

 『割れそうに痛いの。だからもう切るね……』

 「南由、待って……南由っ」


 いくら呼びかけても、もう反応はなかった。

 声のしなくなったスマートフォンをポケットにしまう。


 南由は頭痛を訴えていた。入院していた潮田も……。不吉な符丁にぶるりと身震いが出る。南由の家に行ってやらなければ、と思うが、潮田の上に馬乗りになっていた女の怨霊の姿を思い出すと足がすくむ。どうしたらいいのか、と壁に寄りかかって物思いにふけっていると、「大丈夫ですか?」と、腕を掴まれビクッと心臓が跳ねた。


 「私です、永里」さらに腕を揺さぶられて、ようやく焦点が合った。永里が心配そうに下から顔を覗き込んでいる。


 ふーっと深く息を吐く。「ああ、うん、大丈夫……」


 「そろそろ帰ろうと思って、会場を出て廊下にきたら、紘大君、怖い顔をして突っ立っているから」永里がおどろかせた言い訳をした。「一応、声もかけたんだけど、ぜんぜん気が付かないし」


 「ごめん……」

 「蓑笠くん、具合が悪そうだよ。帰った方がいいよ」と店長も心配そうに言葉を重ねる。

 突然、早口で甲高い声が、横から不躾に話しかけてきた。

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