第72話 4

 正直に言えば、俺と潮田とは一回会っただけの関係なのに、葬式に参列するのはどうなのかと迷った。しかし永里にどうしても一緒に行ってくれ、と誘われては断る訳にいかなかった。そもそも永里を巻き込んだのは俺なのだ。待ち合わせの場所に喪服で現れた三浦は、黒い光沢のあるネクタイが気になるのか、しきりにいじっている。


 「学生の時は学生服でよかったから、喪服は持ってなくて。以前に親戚のあった時に、慌てて買ったんですよね。だからしっくりしなくて。でも紘大さんまで来なくてもよかったんじゃあ」と三浦が言いかけると、永里が強い口調で遮った。


 「ダメだよ。この前、病院に三人で行ったんだから、お通夜も三人で来ないと」と、わかるようなわからないような理屈をこねる。


 永里の言っていることがわからないのは、永里と付き合いの長い三浦でも同じのようで、「なんでだよ。紘大さんは同じ会社でもないし」と文句を付ける。


 「それはそうだけど。でも私たちがお見舞いに行った日の夜に、亡くなったんだよ」


 「偶然だろ、そんなの」

 「偶然じゃないよ」と永里が確信めいて言う。

 「だからなんで……」

 「女の勘だよ!」


 三浦はやっぱりな、と呟くと、はーっとため息をついた。



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