第67話 3

 一体、何が起こっているのかな?

 ひとりぼっちの部屋で、私は膝をぎゅうっと抱きかかえた。

 なぜか部屋中に楽しそうな笑い声が響いている。


 「きゃははは! なゆもおいでよ。一緒に遊ぼう? こっちも、こっちも! こんどはこっち。おにーちゃん、ねえ、抱っこして、とどかないの……」


 くぐもった声が反響しているのが聞こえてくる。楽しそうな声はあの灰色の目の女の子が「おにーちゃん」と遊んでいるのかな? そういえば、あの子がお母さんに「おにーちゃんが欲しい」とねだっていたっけ。ということは、あの子が望んだとおり、「お兄ちゃん」が出来たということ? でもどうやって……?


 「いてて、髪をひっぱらないでくれよ」


 お兄ちゃんと呼ばれている男の人の声は、低くて聞き取りにくい。髪を引っ張られているみたいだ。痛い、と言っているわりには声が嬉しそう。


 そこまで考えて、我に返る。声はどこから聞こえてきているんだろう? 部屋には私ひとりきりのはずなのに。もし隣の家で多少騒いだとしても、壁に耳でもつけない限り声が聞こえることはない。と、いうことは、家の中に誰かがいることになる。楽しそう、なんて思っている場合じゃない。


 私はそろっと立ち上がった。怖い。けれど家の中に誰かがいるなら、確かめなきゃ。


 「こっち、こっちよ!」


 少女の声を頼りに進んで行く。足音をひそめて、そこにいる誰かに気が付かれないように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る