第51話

 「でしょー!」と店長は頬を紅潮こうちょうさせた。


 「だけどさ……、自動ドアが人間を感知できる範囲の、ボールを投げたと思われる場所には誰も立ってないのよ」


 得意そうな声とはうらはらに、目が怯えていた。


 「だからね、犯人はわからないけど、商品の陳列が悪かったからボールが転がった、という状況でもなかったんだよね。警察がね、『たまにあるんですよ、って言うの。二人組の警察官が顔を見合わせて、ニヤ、ッてして! 数年に一回くらい、こういうのが……』って。怖くなっちゃって」


 「怪奇現象か何かの仕業だって片付けられたんですか? でも被害者はそれじゃ、納得しないでしょう?」


 「まあねぇ。被害者が怒鳴り込んで来て、防犯カメラの映像を渡せ、って言ってきたんだよ。だけどもうこっちは、警察で犯人が防犯カメラに映っていないの、見ているから。映っていない以上、個人情報とか関係ないから、防犯カメラの映像を入れていたSDカード、渡しちゃったんだよね」


 「被害者はそれで満足したんですか?」

 「満足なんかしないよぉ」と大きく首を振る。


 「だけどさ……、あ、いや。なんでもない。さあ、話せるのはこのくらいかな」と急に腰を上げて、話を切り上げた。

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