第28話

 駅ビルの五階のフロアには飲食系の店ばかりが並んでいる。順番に店を見ていくと、スミレ珈琲店はすぐに見つかった。


 ガラスのショーケースにケーキが並んでいる。店内に入らなくても、ケーキだけを買えるように、ショーケースの横には茶色のレトロなキャッシャーがある。

 ショーケースの中のケーキは華やかだが、チョコレート細工の飾りやフルーツの飾りは派手過ぎない。店の印象そのままのケーキだ。


 店の入口には黒板があり、色とりどりのチョークで本日のおすすめのメニューの紹介とイラストが描いてある。


 本日のおすすめ、というからには、毎日描き替えるのだろうか。消すのが惜しい程、写実的で凝ったイラストだ。黒板アート、という名前らしいのは、店のホームページに書いてあった。


 「一名様でよろしいですか?」


 店内に入り、先に着いているはずの二階堂永里をどうやって探そうかと迷っていると、声をかけられた。白いシャツに黒いカフェエプロンを着けた女性が、首を傾げてこちらを見ている。


 「あ、いや……待ち合わせで……」


 彼女ではない女性と二人、「待ち合わせ」というのがなんだか気恥ずかしくなって、口ごもってしまう。

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