第9話
実は有り金を株に突っ込むだけではなく、信用取引にも手を出していた。自己資金の三倍以上、限度額一杯まで株を買っている。母親には内緒にしているが、生活費になるはずの給料も、すっかり株の購入資金に当ててしまっていた。
高値で買って株価の下がった銘柄は、下がった金額で買い足せば、平均されて購入額が最初よりも低くなる。だから株価が最初の購入額まで戻らなくても、利益が出せるはずだと思った。しかしさらに株価は下がってしまった。利益が三倍ということは、損失も三倍だ。
それなら、と他の銘柄に手を出せばそれも下がる。
気晴らしに、と行ったパチンコで有り金を全部すってしまい、隣接しているカードローンのATMでお金を借り入れ、また打ち込んだ。たちまち生計が焦げ付いた。
(株を始めた頃は、面白いほど儲かったのになぁ。適当に買ったって、必ずといっていいほど利益が出たのに。まあ、でも上がったり下がったりが株ってもんだ。景気が良くなって、値が上がればすぐに取り戻せるさ)
眉間に皺が寄ってしまったが、無理に唇の片端だけをあげ、おどけたように肩をすくめてみせた。
「有り金全部じゃないよ。貯金だってちゃんとあるさ。だけど貯金を崩したくないんだ」
まあ、嘘じゃないよな。ゼロよりは多いという程度の貯金額よりも、通帳には載らないマイナスの数字がはるかに大きいだけで。
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