第8話
友達が灰宮に騙された、という話は以前にも聞いたことがある。だけど、肝心の友達とやらが誰かは絶対にもらさない所をみると、もしかすると騙されたのは母親本人なのかもな、と思ったが、それは自分にとっても面白い想像じゃないから、追及するのはやめておく。
かわりに「この前も秘書と浮気していたらしいけど、スキャンダルは金で揉み消して市長さまになろうっていうんだもんな。ひでえよなぁ」と、笑った。ご機嫌取りのつもりだ。
しかし年はそれなりに取っているが、まだかくしゃくとしている母親は、そんなおべんちゃらには誤魔化されない、とばかりに、おおげさにため息をついた。
「お前の事だから、どうせ株でも失敗したんだろう? 有り金全部、貯金代わりだなんて言って突っ込むから、お金が必要な時に損して売ることになるんだよ」
ピシャリと言われ、指先でいじっていた細長い箱を握りしめた。よく見ると木箱は手垢で黒ずんでいる。じんわりと手のひらに浮かんだ汗を、その黒ずみに上書きするように、なすり付けた。
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