10話 『表』────混乱が舞い降りる


 突如パーティー会場に響いた入り口のガラスが割れる音と共に、会場の人々は時間が静止したようにその場から動かず、それに伴って物音も一時的に消え、会場はほんの少しの静寂に包まれた。

 そんな静寂を打ち破るようにガラスの破片が床に落下する音と共にフェイルが立ち上がると、同時に殴られた感想を口した。


「こりゃあ変な奴に目をつけられたな!」


 殺されかけたというのにフェイルは────

 実際不死者の身体ではないと顔面を殴られた事による脳震盪のうしんとうや、強烈な打撃によって頭蓋骨が割れて死に至っていたかもしれない。

 しかし────いや、だからこそ自殺中毒者は笑っていた。

 顔面の怪我はガラスに埋もれている内に治った。

 今はガラスによる切り傷の治りを待っている状態だ。


 ────さて、なんか今日はを見つけられそうだ!


 そんなフェイルを見て会場の静寂は幕を閉じる。

 一人の女性が悲鳴を上げると芋づる式に悲鳴は伝染し、街のお偉いさん方は慌てて避難をしようとする。

 突如の混乱に人々は複雑に入り乱れ、パーティーは一気に闇へと誘われる。


「何が起きてんだ?」


 唐突に訪れた混乱にはウィルも思わず食事をやめ、辺りの状況を確認する。

 しかし人の流れが早すぎる為、ウィルは人の波に飲まれて状況の確認などはできなかった。

 そしてそんな人の波から外れた会場の端────


「この騒ぎはなんだ?」


「随分と派手な侵入者が出たようで……」


「ありゃりゃ、『NOT』さんの計画もうまくいかないね〜」


 『NOT』のメンバーは急な侵入者に対し計画を阻害される可能性を感じたのか、一時的に緊張感を走らせる。

 しかしそんなメンバーの中でも相変わらず乖穢かいえ飄々ひょうひょうとした態度で仕事に臨んでいた。

 会場で未だに飯にありついているのは恐らく乖穢だけであろう。


「おい、少しは警戒心を強めろ」


「ん?警戒心強めてどうすんのよ」


 乖穢は『NOT』の中で立場上では先輩に当たる人物の言葉を聞くと、デザートである苺を口に運びながら実に不思議そうな顔をして質問した。


「敵が誰なのかも、邪魔になるのかもわからないのに警戒心を強めてど〜すんの。肩の力を少しは抜きなよ」


 乖穢は先輩の肩をポンポン、と叩くと再び目の前に並べられているご馳走にありついた。

 対する先輩は実に不服そうな顔をしており、乖穢のその後の態度を見て舌打ちした後に「追分さんの保護を始めるぞ」と言って数人の『NOT』メンバーを連れてその場を後にした。


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