携帯電話屋の内緒話

瀬崎由美

第1話・ショップ店員でした

 私が携帯ショップに勤務していたのはトータルで3年ちょっと。割と大きな代理店だったので、その間に店をいくつも移動してました。


 とても転職率が激しい業界なので、半年いたらベテラン扱い。

 長く居れば居るほど、新人の多い店舗へ、キャリアの少ない店長のいる店へ、店長不在の店へと……役職関係なく新人を研修する毎日でした。


 3年もいたらお局扱いも越え、裏のドン扱いされてました。


 気がつけばそんな私も何故か主任や店長という肩書きを(勝手に)付けられていたことも……。


 年のせいか、仕事とプライベートでのストレスが溜まりやすくなってしまい、身体を壊して退職してしまったのですが、携帯屋さんはとても楽しい職場でした。


 男女比も半々かやや女性が多かったんですが、長く勤務してる女性陣は個性豊かで、そして男前な性格が多かった。逆に男性陣はおおらかで優しい人がほとんどでした。この女性陣にしてこの男性陣ありって感じで、妙にバランス良い環境が整ってました 。

 この、男前な性格の女性が長く勤務してる職場って、実はちょっと怖いかもしれないです。逆に言えば、女の子らしい人だと続かない職場ってことです。


 つまりは、危険がいっぱい、ストレスがいっぱいな職場です。


 携帯屋さんが出合う危険って、何だと思います? FAみたいにスカーフ巻いてビシッとした制服きて、綺麗で快適な店で笑顔振りまいて、PC入力したり、商品説明してるだけじゃないんです。


 それだけでは終わらないんですよ、お姉さん達はっ!ほんとにストレス溜まるんです。 ほんとに危険なこと多いんです。


 どっちかと言えば、豪快な姉ちゃん達が多いのは納得です。女性の喫煙率が高かったのも納得です。危険が多い地域に行けば行くほど平均年齢が高いのも納得です。


 携帯屋の危険、それは誰もが持ってる携帯電話ってとこに鍵があります。つまり、誰もが持ってる=怖い人達も当然のように持ってるんですね。しかも、怖い人達はいっぱい電話を持ってる人が多い。


 そして、誰の名義? 何に使ってるの? というような謎だらけな方の多いこと。こういう怖い方達って、他人に対してだけじゃなく、携帯電話という物に対しても優しくはないんですよね。


 折る、踏む、投げる、捨てると、いろんなことをしてきてくれる。


 こうやって携帯に何か悪さをしちゃった後、冷静になって、やっぱりその必要性を思い出す度にショップに駆け込んでこられるのですが、聞いてもいないのに破壊理由&エピソードを得意げに語ってくれる。


 破壊の理由に一番多いのは、電波が悪くてイライラしたとかです。あとは誰かと喧嘩してムシャクシャしたとか……そのエネルギーを真っ当な道に使ってくださいって感じですが。


 また、ちょっと故障した時のキレ方が普通じゃない人が……勘弁ですね。


 大きな声で吠えるだけの普通のクレーマー様なんて、ほんと可愛いもんです。


 怒鳴るに加えて脅迫されることもしばしば……男性店員が対応した時なら、ネクタイで首絞められたり、灰皿で殴られたり。


 酷いとこでは、閉店後に待ち伏せされて路地裏に拉致されたりということもあったりなかったり。


 でも、こういう人達って、見るからにそういう人達なので、ある程度は覚悟して接客してました。


 唯一の救いは、見た目でその手の方だと想像が付くことくらいですね。 見た目では分からなくても、駐車場の車の停め方でも丸判りだったりします。いわゆる、ヤカラ停めですね。


 なかには良い人もいるはず……そんなのは会ったことないけど……ってか、良い人はそういう職業(?)には付いてないと思う。 

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