第16話 報酬金王ハヤチの過去が暴かれています。
転生者という身元が明かされている、通称:報酬金王ハヤチ(本名:林)は、東の通りから少し離れたところにある一軒家に着いた。宝石加工業のフィラット(本名:平田)も連れて。こちらも転生者だ。
「ハヤチさん、ここは?」
「僕がこの世界に来た時に、助けてくれた人の家だよ。どうぞ、入って。」
かちゃっとドアを開けると、すぐに青年が振り返って、近寄ってきた。
「あー、ハヤチー。ハヤチー。」
「おー、アサフ、元気かい?」
その後ろから、母親だろう女性が来た。
「あ、ああ、ハヤチさん。今日はなにかありましたか?」
どうもはじめましてと、フィラットは挨拶をした。
「こんにちは。今日は友達を連れてきました。」
家の青年アサフは、ハヤチに懐っこくじゃれてくる。体にしっかりしがみついてくる。
でも、フィラットより、少し年下のような風貌だ。
ハヤチは、この青年の肩に手を回し、体を寄せて言った。
「じつは、この子に仕事をお願いしたいと思いまして。」
* * *
「この世界に来た時、近くの草原に出たんだけど、最初にアサフが、僕をこの家に呼んだんだ。」
というその子は、家の中をうろうろ歩き回って、家の物を何かいじって、とにかく落ち着きが無い。
「変わった子だろう。だけど一緒にモンスター討伐で、最近報奨金ももらえるようになったんだよ。」
助けてもらった身であること、少しでも恩返しをしたい。
しかし、この世界で何が出来るかと考えると、手っ取り早く報奨金がもらえるモンスター討伐くらいしかない。他にできることは、何もなかった。
それで、僕はモンスター討伐の仕事をし始めた。
少しずつ、いろんなことを試しながら。
そのうち、一人だけでは心もとないと感じ、かといって知り合いなんてこの子しかいない。それでアサフも一緒にモンスター討伐に連れていくようにしたんだ。
そうすると、弱めのモンスターしか出てこなく、なぜか特定のモンスターだけが近寄ってこないことが分かった。
以前、その系統モンスターを見つけても、すぐに逃げてしまうこともあったんだ。
それが不思議だったんだけど、その原因が、アサフにあることが分かった。
僕が初めてこの世界に出てきた草原があるんだけど、そこで走り回って遊んでいた後に連れていくと、そのようになる、と。
そこであの草原に何かがあると踏んで調べてみたんだ。
そこで分かったのは、草原の地面にいる虫は、特有のモンスターが嫌がる匂いを出すんだ。それと、すぐ近くに生えてる木の枝の樹液を触ると、その特有のモンスターは毒として死んでしまう。
だから、あの草原には、人は全くの無害なんだけど、特定のモンスターが寄り付かない地域だったんだな。東の山奥には結構な生息数がいるんだけど、山を下りるとその草原に出てしまう。だから降りられない。この町が襲われないのも、そういう理由だと分かったんだ。
それを利用して、その特定のモンスターの討伐に集中して応募した。
匂いで追い払い、逃げる方向に木の枝をびっしり敷き詰めて、罠を使って討伐していった。武力も魔法も使わないで、レベルアップにも繋がっていった。
そのモンスターは高値で引き取ってくれたから、すぐに報奨金を稼ぐことが出来た。
それを、この家族のみんなに教えたんだ。アサフも真似して、一緒に討伐に向かって、この系統のモンスターだけは討伐が出来るようになった。
東の関所を過ぎれば、山はすぐそこだから、近くて便利だし、その手前の草原で材料を持って行ける。
一応、この子もギルドに登録して討伐しているから、レベルはちゃんと上がっている。今は確かレベル15くらいのハズだ。
依頼は僕が代理で申請しているので、報酬金も僕が受け取っているけど、この家族に渡している。
そのうち、この子本人も申請を出来るようになるだろう。お母さんが代理ということも出来るだろうし。
* * *
「それで、アサフの特性は、集中力がものすごく強いこと。虫を集めたり木の枝を取ってくることを伝えたら、2日くらいはずっと続けたりする。食事も忘れるほど。ただ、その分、普段はあんな感じ。」
ふと青年を見ると、食べ物の箱の中を覗き込んで、つまみ食いしてるところだった。
「それに、喋るのも苦手。文字も書けないし、読めない。だけど作業を覚えたら、ずっと続けてる。飽きてもやってたな。もういいと言うまでね。」
「そこで、宝石の加工を、この子にやらせてもらえないかな、ということなんだ。レベルがそこそこあるから、体の耐性は、まあ大丈夫だと思う。それに、ああみえて手先は器用なんだ。」
「教えるときの注意点は、お手本としてこちらが一度やってみるのを、見ててもらうことだな。2回もやれば、大抵のことは覚えるから。」
ここで、母親らしき女性が、はじめて声を上げた。
「でも、そこまでしてもらうなんて。私もなにも出来ないですし、ハヤチさんにそこまでしてもらうなんて、迷惑が掛かりますから…」
というところで、手を出して遮らせた。
「いえいえ。僕は、これでもまだお返しきれてないと感じていますよ。僕は、アサフがここに連れてこれなかったら、いまここにはいないでしょう。この子に恩返ししてるのと、あなたにも、恩返ししているところなのですから。」
「いぃえぇ、私は何も。」
「それに、今までこの子も看てたんでしょう?その分も、これからが報われる時なんじゃないでしょうか。」
「まあ…まぁ…、あ、ありがとうござ…」
涙を隠しながら、女性は部屋の奥に。
青年はその女性のあとをついていった。
* * *
「さて。ちょっと水っぽくなっちゃったけど、そういう訳なんで、良いでしょうかねえ。お金が必要になったら、少しは蓄えがあるから、いくらか渡せるから。どうかな。」
「こちらはもう、願ったり叶ったり、なので、もちろんOkですよ。…うーんしかし。ハヤチさんって、日本にいるときって、何をやってたんですか?」
「僕?福祉の仕事をしてました。だから体力も無いし、呪文なんて全く無いです。一番最初は、スライム倒すだけで1日かかりましたよ。」
「へえ、そういう人だったんだ。それが今じゃあ報酬金王かあ。」
「あと、あの子みたいなタイプは経験無かったけど、専門学校で勉強していたから、そうかなーと思って。それにたぶん、あの二人は、実の親子じゃないですね。プライベートなところだから聞いてはいないから、どうかは分からないけど。」
「ふーん、けっこう苦労してたみたいだよなあ。この家もまだ直せてないし。まあ、これから幸せになってほしいねえ…。」
「今度は、フィラットくんも、幸せになる番だよ。やってみようよ。」
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