第15話 私の悩みの種を、商工会に渡しました。

うーん、どうすりゃいいんだ。



お茶の運送方法と護衛の付き添い、搬送ルートの選定、途中の宿泊所、馬の食糧問題、


この町に入ってきたら、お茶の確保・仮置き場にする建物、仕分け方法、


店舗や直接お茶を持っていく方法、


金額と引き換えるとき、値引きは可能か、そのお金はどうやって持ち帰る?持ち逃げされないのか?



うーん、悩む。著者も、悩む。


*  *  *



「ムスタファさん悩んでますねえ。」

秘書がそーっと声をかける。サンプルでいただいてきた、ダィジリンのお茶を持って。


「あ、ああ、ありがとう。うん、商工会に提示する前に、ある程度のテンプレは作っておいた方が良いかなーと思ってな。」



この町に、お茶の拠点を置くということは、販売の一手を担うという意味だ。

この町の判断が、周囲の大都市の基準になるということでもある。

それって、けっこう重大なことなんじゃないか?



「うーん、あー、どーすりゃいいんだーー?」


秘書は言った。

「ムスタファさん、餅は餅屋。そう言ってませんでしたっけ?」



…、

そうだよな。


商売人じゃない私が悩んだところで、商売ができるわけでもない。


「商売人だからこそのアイディアも、あるかもしれませんよ。」


「そうか、そうだよなあ。じゃあ、ちょっと呼んできてみるか。ああ、じゃなくて、会議の日にちを決めてみるか。」



*  *  *



「ほぉー、これが、ダィジリンというお茶ですか。うん、美味しいですねえ。」

「へえ、こういう味は、初めてですねえ。」

「こんな色が出せるなんて、どうやって作ってるんでしょうか。」


商工会の4人ほどに来てもらって、実際に飲んでもらった。

やはり感想は、私と同じようなものかな。



「このお茶を作ってるところも、見てみたいですよね。赤いお茶とは違うんでしょうか。」

「もう商品は届いているということですよね。どこに置いてるんですか?」

「輸送の場所は、かなり遠いところだそうですが、葉っぱの質は変わらないものでしょうか?」


いや、やっぱり商人の考えることだったな。けっこう鋭いところをついてくる。



「銀行の頭取からの話だと、この飲んでもらったお茶を、他の大都市に向けて売っていけるようにしたいんだけれど、大元の取り扱いの部署を、この町にしたいと考えているんだそうだ。」


ちょっと私の考えには、甘いところがありそうなので、頭取に責任を持ってもらおうと考えた。



「ということは、このお茶の、独占販売ですな。」


「そういうことだね。」


「うん、いい話じゃないですか。そこまで大きな話だと思わなかったもので。」


おお、商工会のトップがこう言ってくれるなら、幸先が良さそうだ。


「そうなると、販売額はけっこう高めにしないと、税金払うまでの利益は出ないと思っていますよ。」



「え?そうですか?」




「北や西の国のお茶は、生産地がすぐ近くにあるので、輸送コストがかなり低く抑えられています。また生産量も大量栽培していますし、その労力もかなり抑えているそうですな。だから、安い。」

「かえってこちらのお茶は、値段は絶対的に高いでしょう。原材料は多少は安いのかもしれないけど、輸送コストがまず高いですね。東の都会の、その先の山を越えてくるのですから。日数も3倍4倍はかかるでしょう。」

「味が格別に美味い、ということを前面に出して、貴重で高価なお茶として出していかなければ、高値は付かなくなります。初めが肝心です。」

「完成品として出来上がったものを運んでくるということで、他のお茶のような保管・加工・配送コストを削減出来ていることは、戦略的に有効だと思っています。この点が、他の商品に比べても有利になると思いますね。」



やっぱり、餅は餅屋、なんだな。商売の目線からみると、そういうことを気にするんだな。



「そうなると、ですよ。値段の付け方でいうと、1年を通して同じ金額で売る、ということにした方がいいかなあ。」


「ほう?ほう。」


「木の葉っぱが原料なので、出来はその年によって違う。農作物と同じことですけれど、生産地の様子が分からないけど、基本的に、1年で1回だけ採れると考えます。そうなると、葉っぱの出来というのは、その年による気候の影響による、葉っぱの質と大きさです。」

「なので、葉っぱが取れた最初の時に、値段を決めるということですね。」

「前もって、輸送の経費など、支払うものの金額は計算できると思います。それを加味して、利益分を含めた金額で、商品ひとつあたりの売り値段を決めていけばいいのです。」

「そうすれば、もうその段階で、利益と、税金の金額も決定できることになります。」


「ほう。」



「あとは、銀行さんとの話し合いで、支払う経費がどれくらいあるのかを、話し合っていけばいい、ということになってきますね。」



「ほうほう。いやー、やっぱり商工会の皆さんはプロですねえ。話をしてみてよかった。よし、それでは、近いうちに銀行との話し合いができるようにセッティングしましょう。」


「たぶん、話し合いは2回か3回くらい必要になると思いますので、その予定でお願いしますね。」

「そうですね。私たちも、この話し合いで調べなければならないことも、いくつか出てきましたので。」

「あとは、ちょっと話していた。販売の契約書で、高価商品にすることも出来ると思います。これについても考えていきますよ。」



「おお、よろしくお願いします。」


*  *  *


その後、結局、会議は4回行われて、無事、販売までこぎつけることが出来そうだ。

値段も、赤いお茶に比べて3倍の値段で行けそうだ、とのこと。

税金が10パーセントだから、なかなかの金額になる。しかも今回の販売契約で、ダィジリンの商品ひとつあたりの税金が、およそ6パーセントくらいになるようだ(筆者試算による)。

また、うちの町の専売特許があるので、大都会では勝手に仕入れることはできない。必ずうちの町から買うことになっているので、売り上げも好調で、安定した税収に繋がっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る