第13話 ギルドに新たな転生者が現れたようです。
カーン…
ギルドの小鐘が響く。受付の人が窓口にいないときに鳴らすと、担当の人が駆けつけてくる仕組みだ。
鈴だとなかなか聞こえないという意見が出されたので、手のひらサイズの小さな鐘に変更された。
その音を聞きつけ、パタパタと靴の音を鳴らして、受付嬢がやってきた。
「お待たせして、申し訳ありません。どういった要件でしょうか?」
「すみません、人の募集の件で来たんですけど。」
「あ、はい、えーとちょっと待ってくださいね。募集要件の用紙に、記入をお願いします。こちらです。」
「あぁ、はい。」
「あちらの台をご利用ください。記入が終わりましたら、また声をかけていただけたら。」
ふーむとその用紙を眺めているその人、髪の毛がシルバー色?で鼻が高い、耳も小さく目が細い、まだ若そうな、すらっとした体格、背丈はそんなに高い方ではなかったが、このあたりにはない顔立ちから、
「(どこの国の人なのかしら?)」
イケメン、とまで言えなくとも、十分に好感度高めの甘いマスクに、受付嬢の方が気になっていた。
「あ、それと、ギルドの名簿に登録していましたか?」
「あぁー、この町ではやってないなあ。」
「それでしたら、ギルドの新規登録にも書類を書いていただけますか。」
と、もう1枚の申請書を渡し、
「(やった!あの人に近づく第一歩成功!)」
と、心の中で叫んでいた。
書類を受け取り、その人はペコッと頭を下げて「お願いしますね」と声をかけて、
「あの、すみません、ちょっと…」
と、受付嬢は、顔を真っ赤にしながら、その人に、ぽそっと声をかけた。
「…書類が全然読めないんですけど…」
* * *
先日、ハムザくんの説明にもあったが、学校に行っていない子供は、この町には全体の半分くらいいるので、文字が書けない人がいるのも不思議ではないのだ。だが、役所に届けなければならない都合があるので、文面に文字で書いてもらわなければならない。
当人に文章が書けない場合は、受付嬢が、この記述を担当することになっているのだ。
イケメンの男性と、面と向かって会話をするということで、受付嬢は心浮かれる状況ではあったが、
「ううん、これは仕事なのよ。じっくり話しなければならないんだからね。仕事なんだからね。」
と、顔がにま~と緩んでしまうのを、時々気を引き締めながら取り掛かるのだった。
「まずは、あなたのお名前から。いいですか?」
「えっと、日本語でいいのかなあ。平田といいます。」
「…はい?もう一回。」
「ひらたです。ひ・ら・た。」
「ひ、ら、……あ、ああ。Firat(フィラット)さんか。はい、フィラット、と。それと、…あ、…転生者にチェック?」
目を上げた。青年も、こっちを見ている。
視線が合って、受付嬢はぼっと顔を真っ赤にした。
「あの、あの、どこから来たんですか?」
青年は、え?という顔をして、
「…日本です。」
と答えた。
「あー、Nihonn?Nipphonn?あなた、二ホンから来たんですか?」
今度は青年の方が驚いた。
「え?えー?なんでわかるの?」
結局、書類の全てを、話の内容を聞きながら記述していき、ややしばらくかかっただろうか。たぶん、ゆっくり食事できるくらいの時間はかかっただろうな。
とりあえず、1回だけじゃわからないから、もう何回か来てくださいと伝えた、ら。
「え、いいですか?毎日でもいいですか?なんなら俺んちに来ても」
圧が強く、ちょっと負けてきたので、
「あ、えっと、まあ、とりあえず、明日、また、来てもらえますか…?」
「はい、はいはいはい来ます来ます。明日また来ます。」
両手をぎゅっと握りしめて、力強く答えた。
* * *
そして青年は、妙なステップで飛び跳ねながら、ギルドを後にした。
残った受付嬢は、あの圧に押されて、ちょっとぐったりしながらも
「…ふふ、うふふふ…」
握られた手の感触を思い出しながら、その手を見つめた。
「終わった?だいぶ疲れたようねえ、ちょっと休んでおく?」
の声にビックリ飛び起きてしまった。前半と後半の引継ぎ時間を、ずっとあの転生者の対応をしていたものだから、休憩時間も食事時間も取っていなかったのだ。その間、ちょっと年輩の受付嬢に窓口を任せっきりだったのだ。
「なかなかいい男だったじゃない。頑張るのよ~w。」
なんて言われて。へへへと返すのが精いっぱいだった。
その年輩嬢も、いま書かれた書類に目を通してみた。
「えーと、これ。これがさっきの人ね。フィラットさん。んー、冒険者じゃないのか。土木建築業?あ、でも大工じゃないのね。ふーん…?んで、依頼内容が…採掘・砕石、それに付随する加工業務。…これ、詳しい内容聞いてる?」
伏せていた体を、ぱっと起き上がった嬢は、
「ああ、なんでも、ターコイズってのを扱ってるんだそうですよ。」
言われて、年輩嬢は大きく頷いた。
「…あ~ら~…。頑張んなさいよ。なかなかいい男っているもんじゃないわよ。フィラットさんは、逃しちゃダメよ。私が応援するわよ。ね。」
バンと背中を叩かれ、
「ほらほら、今のうちにご飯食べてきなさいよ。」
と話すと、窓口に戻っていき、待ってる客の相手をしだした。
それじゃと、若い嬢は食事に向かって歩き出したが、
「『ターコイズ』って、なにかしら?」
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