第3話 さて、この物語の本筋に入っていきますよ。
ここは市場。
大都市からやってきた高級そうな重厚な機械などが、この市場の奥に陣取っている大型店舗に並んでいる。
その手前に地面に区画分けされたスペースに、床に商品を並べて小物を売っている売人たちが並んでいる。
通路の両側に区画スペースが並ぶので、通行人は常にキョロキョロしながら歩いている。
「基本的なルールとしては、店舗として建物を建てるには、役所の許可と使用料を払う。手前のスペースは無料でフリーだ。」
「手前のスペースでは面積が限られてるし、自衛集団のメンバーもいるから、高級物や大量仕入れは出来ないですからね。だから無料で開放されてるんですね。」
「時間の制限も無いから、何時でも市場は開いている。夜明け前の工事道具や弁当もよく売られているよ。委託も当事者でやってもらえばいいし。」
このあたりの市場のルールというモノは、近くの大都市などでも、およそ共通するものだ。この町でも、独自のルールとして、上のようなものを制定している。
実は、近くにある大都市は、それぞれがそれぞれのルールが存在するので、共通の事項が存在していない。だからその都市で通用する商売方法で売買を行っているのが実情だ。そのために、大都市に近いところの市場をそれぞれ設けている。
「ちょっと奥のお店にも行ってみようか。」
そこには、馬車のオーダーメイド店が、展示品を2台ほど並べていたり、
弓矢の安売りセットが大量に置かれていたり。
「やっぱりモンスター討伐用品が多いですね。」
「あちらの都市特有の品揃えだよな。馬車を引く馬が、あの都市でしか手に入らない。他の地域では馬がいないから、このお店が独占販売のようなものだ。」
「あ、こっちは大工用具か。あー、これはレンガのサンプル品かい?いまのレンガってお洒落で軽くていいねえ。」
鋸(のこぎり)がたくさん、種類も豊富に揃っている。
レンガのサンプル品もいっぱい並んでいて、注文する型番と数量を注文する形式だ。このお店の商品は、すべて取り寄せになっていた。注文してから生産するということなので、在庫があれば2日ほどでこの町に届くという。
* * *
「…ということで、あーいったお店の状況も、逐一管理できていなくてはならない、と、私は考えているんだ。今日の議題は、ここだ。」
市場のすぐ横にあるカフェに入って、お茶をすすりながら若手に伝えた。
「はじめに手数料を決めてお店が出せるんだけど、たとえばあのお店の売り上げがどれくらいなのかというのは、実はよくわかってないんだ。だからすっごい儲かっているのか、全然売れていないのか、お店の人が言ってくれないと分からないんだよな。」
「それが、どういうことになるんですか?」
「たとえば、馬車の値段、レンガの値段、これは他のお店でもだいたい同じだけど、こっちのレンガは軽くてデザインが良いよ、その分ちょっと高いよ、と言って、それがよく売れたとしたら、他のお店よりすごく儲かっているということだ。手数料は同じなのに。それだと出店でも同じ条件ではないということになる、と思ってる。」
「余計に儲けた分は、手数料の上乗せをした方が良い、ということですね。」
「逆に、儲からなかった場合は、料金を安くする、ということもしなくてはですね。」
「一つの商品が、高いか安いか、その場で買えるか数か月待ちか、という条件にもよるけど、それで料金設定を変えなければならない、ということになるんだな。それは、ハッキリ言って、手間がかかる。いちいちそんなこと決められない。」
「あの、すみません、」
と、ハムザくんは手を挙げた。
「その手数料というのは、役所がもらうんですよね?もらった後はどうなるんですか?」
「これはな、」
声を潜めて、私は言った。
「私たちの給料になるんだ。」
「あ、あー、そういうことなんですか。」
「もちろん、給料だけじゃない。これらを記録する筆記用具、他にも役所で必要な経費、仕事の合間に食べる食事などは、みんなこういった手数料から出しているんだ。」
「そうなのよ。自衛団があちこちあるけど、あれの母体も、役所のお金から運営しているの。銀行は独自で手数料を設定しているから、役所とは関係ないけど。」
「そうか、町を維持するためには、必要なんですね。みなさんの協力をお金という形で、ということですか。」
新人のハムザくんも、この手数料システムを分かってくれたようで、よかったよかった。
やっぱり、こういった散策は必要なシステムだなあ。あれこれ説明するよりも、一目見て解ってくれる方が手っ取り早い。時間も経費も少なくて済む。
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