幕間 勇者アミュ、帝城地下牢にて


 アミュは地下牢の硬い床で、膝を抱えていた。


 ここに入れられて、どのくらい時間が経っただろう。

 日が差さず、静寂極まる地下にいると、時間の感覚すら曖昧になってくる。


 入学式の夜は、あれからすぐに馬に乗せられ、街道を夜通し走った。

 途中で馬を替えながら、ほとんど休息を取ることもなく、翌日の夕には帝都へとたどり着いてしまった。


 なぜそれほど急いでいたのかはわからない。

 自分の、身に覚えのない罪についても。


 城門を抜けた後は、すぐに馬車に乗せられ、帝城にまで連れてこられた。

 そしてほとんど何も説明されないまま、この地下牢へと入れられた。


 ここが普通の罪人を入れる牢でないことは、アミュにも想像がついていた。

 なんといっても、ここは帝城の地下なのだ。おそらく、本来は政治犯などを捕らえておく場所だろう。


 しかし、冒険者の子で、一介の平民に過ぎない自分がなぜこんな場所に閉じ込められるのかは、どれだけ考えてもわからない。


 アミュは膝を強く抱え、背を丸める。

 寒かった。外は、きっともう深夜だろう。春とは言えまだまだ冷える時期だ。冷たい石の床からは、どんどん体温が奪われていく。

 着の身着のままで連れてこられたアミュには、辛かった。杖剣を提げてはいたが、馬に乗せられる前に取り上げられてしまったので、魔法で暖を取ることもできない。


 これからどうなるのだろう。


 考えると、体が震えた。

 決して寒さだけのせいではない。


 なぜこんなことになったのかわからなかった。

 つい先日まで、学園で過ごす最後の一年と、来年から始まる冒険者としての生活に、思いを馳せていたはずなのに。


 あれから、入学式はどうなっただろう。

 イーファやメイベルは、心配しているだろうか。

 セイカの、総代としての挨拶は――――。


「っ……」


 滲んできた涙を、ごしごしと腕でこする。

 セイカとした、また一緒に冒険へ行くという約束も、果たせなくなってしまうかもしれない。


 ふとその時、鉄格子の向こうから、足音が響いてきた。


「っ!?」


 思わず身構える。


 灯りを手にした人影が、次第に近づいてくる。


 その姿を認めて――――アミュは、目を見開いた。


「え……あ、あんた……」

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