第十三話 最強の陰陽師、学園生活に戻る


 あれから五日。

 生徒たちには、コーデル先生は退職したと伝えられていた。


 あの地下室と死体は絶対に誰かが見つけてるはずだが……この学園も闇が深いな。

 あの血みどろの光景を、学園側がどのように受け取ったかはわからない。

 魔術に失敗して死んだ内通者、と事実通り受け取ってくれてると助かるが、さすがに無理だろうな。


 まあいいか。

 当面の危機は去ったんだ。学園が続いてくれれば、それで十分。


「あ、イーファ!」


 寮からの通りを歩くくすんだ金髪を見つけ、ぼくは声を上げた。

 イーファはぼくに気づくと、こちらへ駆け寄ってくる。


「おはよう、セイカくん」


 そう言って、イーファはその橙色の瞳を細める。


 ぼくがダンジョンで遭難してたのは十刻(※五時間)ほどで、その間イーファは何も知らなかったらしいが、帰ってきてから話したらめちゃくちゃ心配された。

 アミュのことも気にかけていたようだし、本当にいい子だなぁと思った次第。


「そうだ。イーファ、ちょっと手を貸して」

「え、うん」


 イーファの右手をとると、ぼくは少し迷って、その人差し指に指輪をはめる。


「わっ、な、なに? この指輪……」

「ダンジョンで拾った。磨くのに時間かかったけど。どう?」

「え、きれい……って、わわっ」


 イーファが宙空を見据え、驚いたように言う。


「な、なんか……精霊がすっごい反応してるんだけど」

「あー、やっぱりね」


 ドルイドの杖と似た印象だったからもしかしてと思ったけど、案の定精霊関連のアイテムだったか。


「ぼくにはよくわからないんだけど、それ使えそう?」

「う、うん」


 イーファが軽く指を振ると、周囲につむじ風が回った。


「こ、これすごいよセイカくん! みんな簡単にお願い聞いてくれる! わ、わたしなんかがこんなの持ってていいのかな……」

「いいんだよ。ぼくが拾ったんだし、イーファしか使えないんだからね。サイズは大丈夫? なんなら今度街に直しに行こうか?」

「ううん、ぴったりだよ。ありがとう、セイカくん。これ大事にするね」


 イーファが、左手で指輪に触れながらそう言った。


 使ってくれるなら贈った甲斐もある。

 仲間の力が上がるのは、ぼくとしても願ったり叶ったりだ。


 と、そのとき。

 通りから歩いてくる、見知った赤い髪を見つけた。


 アミュだ。

 呪いを解いてやって以来どうもタイミングが合わず、こうして会うのは久しぶりな気がする。

 この間までは露骨に嫌な顔をされてたけど、仲良くなった今なら大丈夫。

 ぼくは片手を上げ、笑顔で声をかける。


「やあ、おはようアミュ」

「……気安く話しかけないでって言ったでしょ」


 アミュは、微かに眉を顰めてそう言った。


 な……なんでだよ!

 いやおかしいおかしい、これじゃ半月前と同じだよ。仲良くなったよね? 一緒に冒険行こうとまで約束したのに……どういうこと?


 笑顔のまま固まるぼくの隣で、イーファが弾んだ声を上げる。


「あ、アミュちゃんおはよう!」


 声をかけられたアミュは小さく、しかし確かに微笑んで言う。


「おはようイーファ。いい天気ね」

「はあ!?」


 困惑するぼくを余所に、二人は楽しげにおしゃべりを始める。


「昨日は勉強教えてくれてありがとう」

「ううん。大丈夫だよ」

「お礼になにかごちそうするわ。カレン先生の言ってた氷菓子でも食べに行かない?」

「ほんと!?」


「あ、あの。二人、仲いいんだね……」


 おずおずと言うぼくに、アミュが鬱陶しそうな視線を向けて言う。


「女子寮で話すようになっただけだけど。悪い?」

「いや悪くないけど……」


 ぼくとも話すようになりませんでしたっけ?


 イーファはというと、少し申し訳なさそうにしている。


「えと、あの、し、試験前になったら、セイカくんも一緒に勉強しようね!」

「うん……」

「そうしてもらえると助かるわ」


 アミュが、イーファと並んで歩いていく。


 何か怒らせるようなことしたかなぁ……。


「なにしてるの、セイカ」


 アミュが、ぼくを振り返って言う。


「授業出るんでしょ? 早く来ないと遅れるわよ」

「あ、ああ」


 慌てて二人の後を追う。


「……きっと照れてるだけですよ、セイカさま。ユキにはわかります」


 ユキが、耳元でささやくように言った。


 ……そうだといいんだけど。

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