第1話 二人の美女とあたし
あぁ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
「朱音ちゃんは本当にかわいいなぁ。僕、こんなドキドキしたのは、初めてかも」
「ちょっと、優紀。朱音さんにそんなにくっつかないで。朱音さんは私と一緒にいる方がいいに決まっているから、そうでしょ、朱音さん?」
『い、いや、ええっと』
今、あたしの両腕には、見惚れる程の美少女二人が抱き着いていた。あたしは心臓をドキマギとしながら、声を震わせて曖昧な返事をする。
「ね、朱音ちゃん❤」
「朱音さん❤」
『ひゃあ!?』
そんなあたしの耳に狙ったかのように吐息交りの言葉をかけて来る。あたしは思わず、変な声が出てしまった。
そして二人の顔をすぐさま見る。すると彼女たちは頬を赤らめて、少しばかり面白がっている表情を見せた。なんかしてやられた気がしてちょっぴりムッと顔をこわばらせる。
「あぁ、やっぱりかわいい。僕、もうメロメロだよぉ❤」
「朱音さん、今の表情ダメだってばぁ❤」
『だ、だからすぐに抱き着かないでくださいってばぁ!!?』
そのまま二人からは苦しくなるほど抱き着かれてしまう。しかも二人の身体が密着していい匂いもするし、なんだかぼんやりとしてしまう。
美少女二人があたしを求めてくれるなんてとても幸福のはずだ。でもね、このままじゃあたしの心臓が持たない。最高なのにやばい。
なんであたしなんかがこんなに求められるのか。全然、わかんないよ。
『どうして……』
『どうしてこうなっったのぉおおおおお~~~!!!』
両手に華を抱えながらあたしは声を荒げるしかなかった。
★★★★★★★★★★
~6月下旬~
ある日の昼休み
「いやぁ、流石に二ヶ月経つと、学校生活に慣れて来るもんだねぇ」
「う、そだね」
あたしは教室の自分の席で、クラスの一人の友達とだべっていた。
そうそう、あたしの名前は藤宮朱音(ふじみやあかね)。ここ、『有栖川女子高』に通う一年生である。
少し癖っ毛のある茶色のボブショートの髪型で身長159cm。運動は比較的得意なのだが、勉強は少し苦手である。そんなごく一般的な一生徒だ。
そしてあたしと喋っているのが佐藤小百合(さとうさゆり)。彼女は実は小学校の頃からの幼馴染なのだ。
茶に染めたセミロングの髪形が特徴で、身長160cm。お茶らけた性格だが、よく心配事に乗ってくれるなんだが安心する存在だ。席も近いから昼休みは席を近づけて話すことが多い。
だけど最近のあたしはあまりにも大変なことを抱えすぎていて、悩みを話せずにいた。
「どったの朱音? なんか、最近元気ないよね。もしかしてあれ?」
「違う違う。もう、変な事言うんじゃありません」
「あいて」
あたしはそう言いながら、持っていた下敷きで彼女を叩いた。全く、デリカシーがない。
「でもさ、本当に変な気がするよ。お姉さんになんか隠し事してない?」
「うぅ?」
すごくしてる。けど言えない、あんな事なんて。
そして思い悩んでいる時であった。急に呼び出しのチャイムが鳴ったのだ。
『えぇ、1-1組の藤宮朱音(ふじみやあかね)さん。放課後、生徒会室まで来てもらっても大丈夫でしょうか』
「ふえ!?」
あたしは呼び出しの声を聞いて思わず、吹き出してしまった。
「この声、生徒会長じゃん? なになにぃ、朱音、規則違反でもしたのぉ?」
「そ、そんなんじゃないよ」
そしてその声の主の思惑を考えながら、ひどい汗をかいていた。それでもなんとか友達の前では平静を装う。
「でも会長さんとお話って、他のみんなからしたらけっこうラッキーなんだよぁ。ここ女子高だし、けっこう同性に恋するパターンもあるからねぇ」
「…………。」
「会長を慕う娘もいるし。ハハ、美人の会長が女子高のマドンナ的存在だなんて、漫画とかアニメの存在だと思ってたよ」
「……あ、あぅ」
さらにさらに、汗が滴っていく。
「まさか、朱音が会長と付き合ったりしててね、ハハハ」
「あははは、ソ、ソンナワケナイジャン……」
あたしはものすごく、焦りながら、なんとか小百合との会話を誤魔化し続けるのであった。
★★★★★★★★★★
「ふふ、来てくれたわね、朱音さん❤」
「は、はい」
放課後、あたしは生徒会室に来ていた。そしてそこには生徒会長である『九条華蓮(くじょうかれん)』先輩だった。
九条華蓮(くじょうかれん)
彼女は有栖川女子高の生徒会長である高校三年生だ。透き通ったきれいな艶の黒髪ロングに、端正な顔立ちと少しつり目が特徴の方だ。身長も169cmとモデル並みに高く皆からの憧れ。
昼に小百合が言っていた創作の中から出てきたヒロインの様だ。思わず振り返ってしまい、見惚れてしまう程の美女なのである。
そんな彼女の傍らで、あたしは書類整理をしていた。
「あのぉ、九条先輩。他の役員の方はどうしたんですか? わざわざ会長だけが残らなくても……。それにあたしは、役員じゃないですし……」
あたしがやっている具体的な作業は、生徒の親御さんに回す資料、生徒に配るお知らせ、生徒会の資料等の分別だ。承認の印鑑も押したりしている。でもこれは完全に生徒会役員の仕事。
なぜかあたしは、会長に呼び出されてその仕事を手伝っているのだ。
そんな言葉を言うと、横で一緒に作業していた九条華蓮(くじょうかれん)先輩が立ち上がり、そしてあたしの後ろへと来て、肩に手を乗せた。
「言わなくても分かってるでしょ?」
「あっ」
そうして顔を耳元まで近づけて、甘い声で囁いてくる。心臓の鼓動音がドクンドクンと高まっていくの感じる。
「だってここ最近、二人きりになる機会が無かったじゃない? だから無理やりその機会を作らせてもらったの」
「ひゃ!?」
そしてお得意の吐息攻撃。あたしは驚いて、たちまちなさけない声を上げてしまった。
「や、止めてくださいよ!!」
「ふふ、かわいい声。でもそんなこと言って、本当は期待しているんじゃないの?」
「ひゃあ」
そして先輩はがばっとあたしに覆いかぶさってきた。先輩の身体が背中越しに密着する。すると九条先輩からもドキドキと鼓動を感じることがあった。
「好きよ、朱音……」
「あう……」
あたしは抵抗できないまま、首を振り向かせられる。そしてそっとお互いの口元へと近づいていった。だがその時だった。
「僕に抜け駆けで、何してるの!?」
声が聞こえた。その瞬間、あたしは我に返ってすぐに九条先輩から離れた。そして声がした方向に目を向ける。
「し、四ノ宮先輩……」
「あら、優紀じゃない? どうしてここに」
そこに立っていたのは、テニスウェアを着た一人の背が高い女性が立っていた。
四ノ宮優紀(しのみやゆき)
それが彼女の名前だ。会長と同じく有栖川女子高の三年生で、女子テニス部の部長を務めている。黒髪短髪で、男の人とも見間違えるくらいのイケメンだ。
身長は175cmと俳優並みのプロポーションで、しかも一人称は僕という、まさに王子様にふさわしい方だ。
そんな彼女が少し汗をかきながら、目の前に立っている。
何というか下品だけど、すっごくエロカッコイイ。いや、そんな事を考えている場合じゃない。
四ノ宮先輩は、今部活中のはず。なぜこんなところにいるのだろうか?
「二人とも、なぜ僕がここにいるのかって顔してるね」
「え、あぁあ、そのぉ……」
四ノ宮先輩はじっとこちらを睨んで来る。別に悪いことはしていないけど、ちょっぴり罪悪感を感じてあたしは言葉に詰まってしまう。
しかし九条先輩は特にひるむことなく、あたしの顔に手を当てる。
「そりゃそうよ。だってあなたは部活してたんでしょ?」
「昼にあんな露骨な放送してるし、うちのテニス部に入ってる生徒会役員の娘たちもすぐに部活に来たし、おかしいと思うよね? だから体調不良って嘘ついて抜けてきたんだよ」
四ノ宮先輩はそう言うと、コツコツと足を鳴らして、そのままあたしの側へと立ち、九条先輩と並んだ。
「けっこう不真面目なのね、ふふ」
「独り占めは良くないって決めたよね? 僕も朱音ちゃんのこと大好きだし」
「ひ、ひゃ」
四ノ宮先輩は、九条先輩とにらみ合ったと思ったら、なんと顔を抑えて一気に口をキスをした。
「うぅん!?」
「あぁ!?」
「ふふ❤ 今日の一番乗り……」
それに九条先輩は声を荒げて、あたしも顔が真っ赤になってしまった。そして目の前には勝ち誇って、頬を赤らめた四ノ宮先輩が映っていた。
「せ、先輩!! こ、こんなところでな、何してるんですか!?」
当然ながらあたしは思い切り、四ノ宮先輩に突き放していた。
「も、もうなんでこ、こんな……」
なんでこの人は学校でこんなことをするんだ。そんな感じであたしが慌てふためいていると、反対方向からぐいっと腕が引かれた。そして
「うぅ!?」
「うぅん❤」
今度はなんと九条先輩にキスをされてしまった。
「ぷはぁ~~。朱音さんは、私の彼女でもあるのよ?」
「え、あ、ちょ……」
あたしは次々起こるこの人たちの奇行にただ混乱する他なかった。
「ふん、朱音ちゃんは僕が好きなの!!」
「ばかね、私の事が好きに決まってるわ!!」
しかし、そんなあたしの考えとは裏腹に二人の先輩は言い争いを始めてしまった。だけどこの人たちは何をしているんだ。そして恥ずかしさと共にふつふつと怒りが湧いてきた。
そして遂に声を荒げることになる。
「何してるんですかぁぁぁ~~~~!! 馬鹿ぁあああああ~~~~!!!!!」
あたしは二人にそう大声を叫んだ。
さてこんな濃厚すぎる関係を見て、お察しとは思う。
そうあたしは、なんとこの二人と付き合っているのである。
この話はそんなあたしの波乱万丈な日常を描く物語なのです。
美少女に挟まれたあたし!? フィオネ @kuon-yuto
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