前世の性格が抜けていません

狩倉無夢男

乙女ゲーム『始まりの物語』

第1話 悪女の死

「フロリア!!またメイドを叩いたのか!」

怒鳴り声が家の中を走る。

この日もまたフロリア・ルクデクトは父親の説教を聞いていた。

「お前はなぜ誰に対してもそのようにふるまうのだ、」

フロリアは根っからの悪役令嬢だ。

「お父様?そんなに怒鳴るなんてどうなさったの?」

きょとんとしながら何もなかったかのようにかわい子ぶるフロリア。

プラチナブロンドの足まである緩いカールの髪を窓の隙間風で揺らしながら、

かわいらしい、お人形のような顔で父親を見つめる姿は天使そのものだ。


「なにをしているの!!こんな熱い紅茶を飲めるはずがないでしょう!!」

メイドのリリの顔を叩き、全身を蹴ったり殴ったりした。

「お嬢様!!おやめください!!」

執事長がフロリアを止めようとしたが、フロリアは動きを止めることはない。

「触らないで!!無礼者!」

そうして部屋の花瓶を投げつけた。

たくさんの破片が飛び散り、悲惨な状態になった。

大きい物音がしたことに気づいたのは、今日フロリアに会いに来たイルディア・ジェリスムだった。

フロリアを待つため、応接間に通されていたイルディアは音を聞き、

「何かあったのですか?」

とメイドに聞いた。メイドは口をすぼめながら

「何もないとは思いますが、部屋に行きますか?」

といった。もちろんイルディアは心配だったので、フロリアの部屋に向かうことになった。


しかし、状況は悲惨で、部屋の前にイルディアが向かったころには

「フロリア…?何してるの。」

そこにはぐちゃぐちゃの髪の毛で泣いているメイドと、何もなすすべのない執事長がいた。

フロリアはイルディアを見つけて、鬼の形相を天使の笑みに変えて

「イルディア様!どうしてここに?おはようございます!」

甘い声であいさつをするが、イルディアは言った。

「どうしてメイドが泣いているのですか?」

「わたくしの紅茶がものすごく熱かったんですよ?とても飲めやしない。それをメイドのリリに伝えたらリリが花瓶を私に投げつけてきたんです…怖かったんです。」

口からのでまかせと、得意の猫かぶりとぶりっこでイルディアに抱きついた。

しかしイルディアの口からこぼれた言葉は悲惨だった。

「ではなぜフロリアさまはドレスが汚れていないのですか?」

「えっ、?」

「なぜこんなにきれいなのでしょう。」

「花瓶に水は入ってなかったのよ!」

「床が濡れていますし、花瓶は割れているので、水が入っていなかったのはうそですよね。さらに、メイドの手から血が出ておりますが。フロリアさまがやられたのでは?」

「いいえ!!」

「この期に及んでまだ自分はやられた側だというのですか。」

呆れた顔をして、またイルディアは言葉をつづけた。

「呆れました。今日は帰らせていただきます」


そういって王宮に帰ったイルディア、

この日からフロリアはイルディアと帝国に嫌われ、『わがまま悪女』になったのだった。

そして7年たったフロリアの16歳の誕生日の日、イルディアは平民のオルビアを連れてきて、いうのだった。

「お前、フロリア・ルクデクトとの婚約は、今日をもって解消する!!!」

そういってフロリアの目の前でイルディアはオルビアとキスをする。


その次の日フロリアはオルビアの食事に致死量の毒を盛ったとして、

処刑されたのだった。

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