3-2

 ケーブルで行くので、近い駅で待ち合わせをした。私、大学の1年の時に通ったところだった。リュックに朝から仕上げたお弁当とか、着替えのTシャツ、タオルなんかを詰め込んで、今日はスリムジーンズにキャスケットを被って出掛けた。


 やっぱり、早坂さんは、先に来ていた。彼も、今日はコットンパンツでラフな格好だった。


「おはよう 天気が良くてよかったよね」と、笑顔で挨拶してきた。


「ええ でも、あんまり暑いのも 山の上だから、涼しいかしら」


「どうだろう ケーブル乗り場までバスだよ あっち」


 ケーブルを降りてから、又、バスに乗って、アスレチックの受付で、早坂さんは予約を事前にしていたみたいだった。いろんなコースがあるみたいだったが


「私 水上はダメ 濡れたら、着替えないもの」


「じゃぁ 最初は、ノーマルなやつから リュックは僕が持つよ」と、代わりに背負ってくれた。


 私は、自分で思っていたよりも腕で支えるチカラが無くって、ぶら下がるのは駄目で、時々、早坂さんの手助けもあって、なんとか。だけど、バランスを取るものは、プチが


「俺が、ファーっていうタイミングで行けば、大丈夫だよ」


 なるほど、プチの掛け声に合わせて、トットットとこなしていけた。


「すずりちゃん こっちは、すごいね 飛び跳ねるようだったよ で、掛け声みたいなのが聞こえていたけど‥ 気のせいかなぁー」


「うふふっ 私の気合ですよー これで、とりあえずのコース終わりですね 汗かいちゃった ねぇ 早坂さん どこかでお弁当食べて、休憩」


 木陰のあるベンチを見つけて、座った。お弁当を広げると


「わぉ すずりちゃんの手づくりかー 感激だよ 立派に奥さん出来るね」


「早坂さん 私だって 一応、女の子してますもんで 家でも、お母さんの代わりにお料理作る時もありますよ」 


「そうなんか 普通のお嬢さんか思ってた」


「早坂さん 私 ごく普通です」


 早坂さんは全部おいしそうに食べてくれた。


「うー うまかったよ あのさー すずりちゃん そろそろ その早坂さんって呼ぶの止めない? しゅん(舜)でいいよ」


「はい でも、急に そんな」


「いつまでも 間が、縮まんないよ 僕も、すずりちゃんと呼ぶことにしたんだ あっ コーヒー買ってくるよ コーヒーで良い?」


「あっ 私が行きますよ」と、言うと、良いから座ってなさいと言って、お店のほうに、もう、歩きだしていた。その間に私は、


「舜さん? 間あき過ぎるかな、他人みたい 舜ちゃん? 軽いかな 舜 慣れ慣れしすぎるかな」と、練習してみた。


「しゅん で いいんじゃぁないか 俺にだって呼び捨てだろう」と、プチが言っていた。


「今度は、空中のほうに、行こうか」


「ねぇ 私 少し、腕が痛くなってきたの」


「そうか じゃぁ 少し、歩いて、パターゴルフにするか」


「うん お腹もいっぱいだし、その方がいい」と、手つないでいった。


「すずりちゃんは、ゴルフやったことあるの?」


「ううん ないよ お父さんなんか、年中行っているけどね 舜は?」言ってしまった。


「僕は、いろいろと付き合いがあってね うまく、ならないけどね」


 最初は、うまくいかなかったが、後ろから包み込むように教えてもらって、何とか、真っ直ぐ転がせるようになり、楽しくなってきたのだ。


 帰りにケーブルの山上駅まで来た時、展望の開けた所があって、遠く大阪の方が霞んで見えていた。私は、舜の腕を掴んでいた。


「舜が生まれたのは、どこ?」


「僕は、奈良の山奥で、滋賀県との県境だ。とっても田舎だよ 山と川しか無い、不便なところだった 学校行くにも、苦労したんだ」


「そう 今でも、あるの そのおうち」


「兄貴夫婦が、椎茸栽培をやっていて、母の面倒を見ているんだ。父は僕が大学卒業すると同時に亡くなったんだ」


「そうなの 舜って 苦労したみたいだよね 私って、苦労知らずで来たから・・」


「それはないよ 頑張って努力してきたじゃぁないか」


「そんなこと無いですよー ラッキーだっただけ」


「それも、実力のうちだよ」


「ありがとう 舜は優しいよね」


「君が 素直だし、可愛いからだよ」


 私は、頭を彼のほうに傾けていた。だんだん、魅かれ始めているのかも知れない。


 ケーブルを降りてきたとき


「僕のマンシヨンに来ないか 神戸駅の近くなんだ 晩御飯でも、一緒に」と、聞かれた。


「ううん 今日は、汗かいちゃったから 今度、改めて、ご飯を作りに寄せてもらうわ」と、しばらく、間があって、答えた。


「そうか その方が楽しみだな 期待しているよ」


「舜 そんなに、期待しないで あまり、上手じゃないし、まずいかも知れないよ」


「なんだって おいしいに決まっているよ すずりが作るもんだったら」


 家に帰ると、お母さんが


「ねぇ すずり 聞いて 昨日、あんなに慣れ慣れしかったのに、今日は、チッチたら、呼んでもこっちを振り返るんだけど、無視して寄ってもこないのよー ほんと、気まぐれなんだからー」


 そうでしょうよ、プチじゃぁないんだから・・ 

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