第3話 冒険の始まり3
カマッセの拳による攻撃はは素人丸出しのひどいもんだった。腰に剣を差しているので〈剣術〉スキルくらいは持ってるだろうが、それ以外の武芸はからっきしなんだろう。
そんなカマッセの攻撃を俺はひらりひらりと避ける。
もちろん、俺も格闘技の達人というわけじゃない。
秘密はアカシックからもらったC.H.E.A.T能力のアビリティCPだ。すでに能力を発動させ、手近な冒険者から〈格闘術〉スキルをコピーしていたのだ。
「ちょこまか動くな!」
ああいいぜ。動かないでやるよ
直後、俺はカマッセの拳を受け止めた。
「へ?」
まの抜けた声を出すカマッセに、俺は拳を叩きつける。
カマッセは「うぎゃーっ!」っと壁までぶっ飛ばされて気を失う。
その光景を目の当たりにした他の冒険者たちがざわめき始める。
「なんだあの若造、奴を一撃で倒した!」
「カマッセは
「いったいどうやったんだ!」
これだよ、コレコレ! 最弱かと思いきや実は強かったという異世界ファンタジーで定番の展開!
その時、見知った顔に気づく。冒険者風の格好で周囲に溶け込んだアカシックだ。
彼女は俺と目が合うと、笑顔でサムズアップして人混みの中に消えていった。
やはりC.H.E.A.T能力が認識されないのは、アカシックが最弱展開を引き起こすためか。
「何やってるんですかもー!!」
喧嘩騒ぎを起こしてギルド職員が黙っているはずもなく、俺は正座でお説教を食らうハメになった。
この世界、正座の概念あるんだ。
「とにかく! 今後はこのような事は起こさないよう、品位ある振る舞いを心がけるように!」
コッテリ絞られた上に壊した窓を弁償するはめになった。
ちなみにカマッセの方は派手にぶっ飛んだ割に怪我はない。
イモータルEXの再生効果は俺が触れている他人や物にも効果がある。なので素手で殴ったところで相手は無傷だ。痛い程度で済まさないと、遺恨が残るからな。
「それと説明がまだでしたが冒険者の階級は
「昇級の条件は?」
「クエストの達成とギルドの面接で昇格の可否を判断します」
実績だけでなく、日頃の振る舞いや評判も大事と言う事か。
「何度もクエストに失敗したり、目に余る行動を繰り返すと降格処分を受けます。注意するように」
「はい」
流石にカマッセの件は少しだけ反省している。あんな風に喧嘩を売るのは1回限りにするべきだ。
「そしてこれがあなたの身分証です。1年ごとに最寄りの冒険者ギルドで更新するのを忘れないでください。」
職員が渡してきた身分証は不思議な光沢を放つ金属カードだった。俺の名前、種族の他、今のランクが刻印されている。
ランクはなったばかりなので
「また、あそこの掲示板にクエストを張り出してますので、依頼書の注意事項をよく読んだ上で選んでください」
この街の近くに迷宮はないようだし、まずはクエストをこなして冒険者としての経験を積むか。
俺は早速掲示板に張り出されたクエストの数々を見る。
クエストにはランクの指定があるので、
その中から俺はゴブリン退治を選んだ。C.H.E.A.T能力があるとはいえ、まずはザコ相手に経験を積まないとな。
依頼書にかかれている詳細を読む。
この街から少し離れた場所に貴族の邸宅があるのだが、5年前の魔王軍侵攻で持ち主が死んだ今では放棄されている。そこをゴブリンが占拠したので退治してほしいという内容だ。
緊急性はなく、しかも報酬が安いので誰も手をつけてなかった。
俺は依頼を受ける旨をギルド職員に伝えてる。
おっと、出発の前にアビリティCPでコピーするスキルを〈格闘術〉から別のにするか。
俺は能力を発動させ、ギルド内にたむろす冒険者達を見る。
すると視界の中央に収めた相手のスキルが脳裏に浮かび上がる。〈剣術〉とか〈基本炎属性〉とか色々あるが、さしあたって〈筋力強化〉にするか。
剣の扱いは最低限できるから〈剣術〉スキルはいらないし、だったら地力の上がるスキルのほうが良い。
そうして新しくスキルをコピーし終えた俺は目的地へ出発した。
数時間後にたどり着いた貴族の邸宅は、今やゴブリンたちの手によって変わり果てた姿に改装されていた。
あちこちに動物の骨や皮で作った悪趣味なオブジェが飾られてる。
俺は腰の剣を抜く。
毎年親戚の集まりで会うほんの数日だけだが、俺はある人から剣術を教わっていた。しかも今思えば少し真面目なチャンバラごっこ程度のものだ。
あの人もなついてくる俺と遊んであげるような気持ちで、初歩の初歩を教えていたのだろう。
普通ならまともに戦えないだろうが、俺には不死をもたらすイモータルEXと爆発的成長をもたらすイレギュラーGUがある。慎重に戦い続ければ、ゴブリン程度を倒す実力くらいすぐに付くだろう。
玄関の扉を静かに開け、中の様子を見る。昼間だが明かりがないので薄暗い。
それにひどい悪臭が漂っている。
よく目を凝らすと色がくすんだカーペットの一部がわずか凹んでいる。
ひっぺがしてみると落とし穴が現れた。
「うげ」
しかも穴の底に、糞尿が塗りたくられた木製スパイクが仕掛けられてた。
悪臭の原因はこれか。
いくらイモータルEXで死なないとはいえ、これは引っかかりたくないな。
知性を持つ敵は怖い。人間が知恵を巡らせて強大な怪物を倒すのなら、ゴブリンも知恵で人間を倒せる。
それがわかってたから、俺はC.H.E.A.T能力の中から不死を選んだ。予期せぬ事態にも保険になる。
「殺せ、殺せ!」
「死ね! 死ね!」
「新鮮な人肉だ!」
獣のわめき声のようなゴブリンの言葉を腕輪が通訳してくれる。
俺が剣を振るうと、事前にコピーしていた〈筋力強化〉のおかげか、ゴブリンの体が豆腐のようにスッパリと切断された。
実戦はこの瞬間が初めてだが、イレギュラーGUによって戦いながら即座に成長する。
前方から襲いかかってきたゴブリンを全滅させた俺は、すぐさま背後に向かって剣を振るった。
当然、そこにはゴブリンがいた。調度品の影に隠れていたんだ。
伏兵を倒してもまだ警戒を解かない。俺はこの邸宅にゴブリンが全部で何匹いるか知らないんだ。
別にイモータルEXがあるから油断しても死にはしないが、間抜けなしくじりはしないに越したことない。
俺は邸宅内の探索を続け、一部屋ずつ入念に探索してゴブリンを倒していく。
最後の一部屋は何やら立派な扉がこしらえてあった。ここの主だった人の私室か仕事部屋かもしれない。
扉にはトラップが仕掛けられた様子はない。
俺は息を潜めて扉に耳を当てる。すると物音がした。敵だ。数は……一人だな。
俺は思い切って扉を蹴破って中に突入する。
すると突然襲いかかってきた熱線が俺の肩を貫いた。
「うぐっ!」
い、痛い! 信じられないほどの激痛だ。
俺は思わずその場にうずくまり、涙をにじませながら痛みに耐える。
直後に俺は自分のうかつに気づく。痛みのあまり剣を手放してた!
慌てて剣を拾おうとしたが、床を撫でるように放たれた熱線が腕を切断する。
「ああああああ!!!」
さらに大きな激痛に襲われてとうとう叫んでしまう。
俺の醜態を嘲笑う汚い声が響く。
「人間、雑魚! 俺、最強!」
リーダー格だろうか。さっき倒した奴らより体格がしっかりしている。よく食べ、よく体を動かして鍛えられている証拠だ。
ゴブリンの手にはマジックアイテムらしき杖が握られてた。熱線はあれから発射されたのか。
俺は無事な方の手で剣を拾い、その場から素早く動く。
その一瞬後にゴブリンの熱線が床を穿つ。
大怪我をしても素早く動けたのはイレギュラーGUのおげだ。ほんのわずかな時間で激痛の耐え方を覚えた。
俺は熱線の回避に専念してイモータルEXによる回復を待つ。
腕が元通り再生されたあと、ゴブリンに切りかかった。
首を狙った横なぎの一撃だ。
だがゴブリンはジャンプして避けた。
それだけでなく、剣を足場にさらにジャンプし、俺を飛び越して後ろへ回り込んだ。
背中からの小さな衝撃とともに熱線が俺の体を貫く。
振り向きながら剣を逆袈裟に振るうが、ゴブリンは一歩引くだけでそれを避ける。
「間抜け!」
ゴブリンが笑う。
間違いない。このゴブリンは戦いに慣れている。いや慣れてるなんてもんじゃない。
こいつはゴブリンの……達人!!
●Tips
スキル
異世界のヒトが生まれながら持っている技能や能力の総称。
女神が■■■■■■■■のために開発した人材育成技術で、■■■■■■■■が宿主の遺伝子情報から付与するスキルを判断する。
■■■■■■■■は自己増殖機能を持ち、母親から胎児へ分け与えられることで、新たに生まれる者もスキルを有する。
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