レッツゴー異世界 3つのチートを持つ男
銀星石
第1話 冒険の始まり1
異世界ファンタジーの人気はみるみるうちに上がり、今では世界的に人気のジャンルになるほど成長している。
今年なんてネズミのキャラクターで有名な会社と、風の谷でおなじみの会社がそれぞれ異世界転生アニメを発表したくらいだ。
その日、はWEB掲載時代から大好きな作品の書籍版発売日だったので、高校が終わったら本屋へ直行した。書籍化に合わせて2万字も加筆されて、WEB版では登場しない新キャラクターも追加されているのでものすごく楽しみだ。
「すみません。予約していた調月考知郎です」
無事に本を買えた俺は、早く読みたくてワクワクした気分で早足に歩く。自分を落ち着かせないと思わず走り出してしまいそうだ。
……うん? なんか遠くでワーワーキャーキャーと騒がしいな? 今日は何かのイベントでもあったっけ?
その時、前方の曲がり角からアスファルトを切り裂きそうな急カーブとともに一台乗用車が現れた。
その車体には轢殺痕とおぼしきヘコみや血の汚れとともに、「レッツゴー異世界」、「転生は救済」、「人類総轢殺」といった狂気的文言がなぐり書きされている。
「そこの少年!」
男が運転席から身を乗り出して狂気的な微笑みを向ける。
「君も異世界に転生させてあげるよ!」
「うわッー! 発狂異世界マニアック!」
男は殺意のこもった満面の笑みを浮かべながらアクセルを全開にする!
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
思わず目をつぶった。
し、死ぬ! 俺は死ぬのか!?
嫌だ! さっき買った本をまだ読んでないのに!
直後に衝撃が来る……と思ったんだが不自然に間が有る。
おそるおそる目を開けてみると、俺は見知らぬ場所にいた。
そこは図書室だ。出入り口の扉と天井以外の全部が本棚になっている。なんだか神殿っぽい雰囲気だな。
「危なかったわね。あと一瞬、遅かったら
いつの間にか部屋には俺以外の誰かがいた。異世界転生の女神っぽいシーツを巻きつけたようなドレスをまとった20代後半くらいにみえる女性だ。
「あなたは?」
「私はアカシック。あなたをここにつれてきたのは私よ」
「あなたは命の恩人だ。ありがとう」
「いいのよ。私も君に死なれては困るからね」
「俺になにか用があったのか?」
突然現れた謎の人物。そして俺になにかしてほしいことがある。
これは? もしや?
「薄々、わかってるんじゃないの?」
アカシックは焦らすような笑みを浮かべる。
「ここにある本は全て異世界ファンタジーよ」
アカシックは周囲を見渡しながら言う。
「最近、すっかりこの手の物語にはまってね。だんだん本を読むだけじゃ物足りなくなって、本物の異世界冒険を見たくなったのよ」
「それはつまり?」
俺は平静であろうとしたが、胸から湧き出る期待が抑えきれない。
「あなたには異世界へ行ってもらいたいの」
「行く!」
俺は思わず即答してしまった。
異世界に対し、これはフィクションであると分別は付けていたが、同時にもしも本当に異世界を冒険できたらと夢見たことも事実だ。
こんなチャンスを逃がせるわけがない。
「ありがとう」
アカシックは俺の快諾にニコリと笑う。
「ところで、その異世界にはやっぱりスキルがあるのか?」
様々な技能や能力を練習無しで習得できるようにするスキルは異世界ファンタジーの花形要素だ。
「ええ、もちろんあるわよ。あなたにもスキルをあげるわ。特別な、ね」
アカシックの手には金色に輝くカードの束があった。
「これは私が独自に開発した、異世界では本来存在しない能力をカード化したものよ。
なんだか頭文字をとれば
「この中からC.H.E.A.T能力を選んで頂戴。ただし、絶対に3つ選ぶこと」
「3つももらえるのは嬉しいが、なぜ絶対選ばなきゃならないんだ?」
「実は君以前に異世界で冒険してもらった子がいるんだけど、その子は自分の力だけで挑みたいってC.H.E.A.T能力を断ったのよ」
随分とストイックなやつがいたもんだ。
「スキルが物を言う異世界で、スキル無しで冒険する様は見ていて楽しかったけど、チートをいかに活用するかが異世界ファンタジーの醍醐味でしょう? だから次はC.H.E.A.T能力をちゃんと使ってほしいのよ」
まあ確かに続編が前作の二番煎じだったら退屈だよな。その気持はわかる。
ともかく俺はアカシックからカード束を受け取る。
カードに書かれているのは、時間を巻き戻すチート、あらゆる科学知識が使えるチート、どんな人間とも友好関係を作れるチートなどなど、まさにチートのオンパレードだった。
その中から俺は吟味に吟味を重ねた。3つ選ぶので、個々の能力の親和効果もきちんと考えた。
「よし、俺はこの3つにする。」
俺はイレギュラーGU、イモータルEX、アビリティCPを選んだ。
イレギュラーGUは常人の数百倍の効率で成長するC.H.E.A.T能力だ。この力があれば、努力さえ怠らなければ、あらゆる分野で人間の上限値まで実力を高められる。
2つ目のイモータルEXは不死能力だ。しかもただの不死じゃない。俺が触れることで他人を癒やし、物体を復元できる。
最後のアビリティCPは相手が持つ能力を一つだけコピーして自分のものにできる。
「使い勝手の良さを重視したのね。いいセンスよ。」
アカシックは3枚のカードを俺の体に当てる。するとカードは溶けるように俺の中へと消えていった。
「これであなたにC.H.E.A.T能力が宿ったわ」
それからアカシックは一冊の本と腕輪、そして革袋を俺に渡す。
本の方はタイトルに「異世界の歩き方」とあり、あからさまに有名なあの旅行ガイドブックのパロディだった。
「これは?」
「異世界の基本的な情報をまとめたガイドブックよ。冒険の役に立てて頂戴」
もうちょっとファンタジーっぽい装丁にしてほしいところだが、必要なものには変わりないのでひとまず受け取る。
パラパラと少し流し読みすると、異世界の文化や街の名前だけでなく、スキルや魔法の一覧表もあった。すごいな。
「腕輪は翻訳機よ。身につければあらゆる言語と意思疎通できるわ。革袋の中身は私からのお小遣い」
革袋の方は見たこともない貨幣が入っていた。たぶん異世界の通貨だろう。
「さて、準備はこんなところかしら」
「それで、俺は向こうで何をすればいい?」
「特に無いわ」
「え? 異世界に行くんなら向こうで何か有るんじゃないか? 魔王が世界を滅ぼすとかさ」
「魔王はいたけど、前回に異世界冒険した子が倒したわ。今は政治情勢も安定しているから、戦争が起きる危険もないわね」
アカシックは俺に微笑みかけながらこう言った。
「異世界ではあなたは自由よ。魔物退治をしてもいいし、ダンジョンを攻略しても良い。なんだったら、ハーレムを作ってスローライフを楽しんでも良いわ。異世界に飽きたら元の世界に戻してあげるし、異世界に永住したいのならすればいい」
「それなら良いんだが、あんたは異世界の女神なんだろう? 必要もないのに俺を異世界転移させても良いのか?」
こういう異世界転移モノというのは、異世界の神様が現代の地球人になにかさせるのが定番だ。
「ああ、私、別に女神じゃないわよ。確かに異世界で信仰されている女神はいるけれど、私は全くの別人」
「え?」
どういうこと?
「私は異世界が大好きな、ただの超能力者に過ぎないわ。これから向かう先だって、別に私の生まれた世界というわけじゃない。たまたま異世界冒険の舞台にちょうど良いから選んだだけ」
いやいやいや。チートを作ったり気軽に異世界転移できるやつが、ただの超能力者なわけないだろう。
「あんた、一体何者なんだ?」
「ふふふ」
アカシックが指を鳴らすと、天井に穴が空いて俺を吸い込む。
「うおおお!?」
「それじゃ行ってらっしゃい」
アカシックはにこやかに手を降って俺を異世界へ送り出した。
●Tips
調月考知郎
何処にでもいる異世界ファンタジーが好きな高校生。
アカシックの提案する異世界冒険を即断即決したのは、元々それに憧れているのも有るが、最大の原因は■■■や■■■を生み出すために存在する■■■■■■■■の出身だからである。
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