ナイフ
爪木庸平
ナイフ
銃刀法違反っぽいナイフを家のすぐ前の道路で拾って帰った。刃渡り四十五センチ。料理や狩猟に用いるものではない(僕は狩猟の仕事を経験したことがある)。
机の上に置いて写真を撮る。既に部屋に馴染んでいる。
友達に写真を送る。
「拾った」
「なんで拾うねん」
「あかんかったかな」
「返してこいよ」
「でも持ち主が大量殺人鬼やったら返すことで殺人に加担することになるからあかんやん?」
「どんな想定やねん」
「趣味のナイフでこのサイズはありえへんやろ。殺人用やって」
「殺人用に作られるナイフは軍以外にはないやろ」
「だから兵器を拾ったんやって」
「兵器を拾うな」
「しかしこれで僕が大量殺人鬼になる可能性も出てきたなあ」
「やめろやめろ」
「できるなら全員殺したいわ」
「誰をやねん」
「そらマジョリティやろ。怨恨やわ」
「そろそろ通報するわ」
「実際誰がいいと思う? 政治家とかが無難かな」
「全員は無理やろ」
ナイフで人差し指の先端を切り付ける。血が流れる。このナイフは切れる。
「やる気の問題」
「ナイフで世の中のマジョリティを駆逐するのは無理やから諦めろ」
「そう考えると核兵器とか夢があるよなあ」
「今さらやけど家の前に落ちてるの物騒やな」
「どうやったら落とすんかね。おっちょこちょいの殺人鬼か」
「とりあえず言ってみるのやめろや」
「日曜何時にどこ集合?」
「十九時に梅田ぐらい?」
「ナイフ持ってく?」
「いらんわ」
「オーケー」
「返してこいや」
「伝説の勇者の剣やからこれは。選ばれてしまった」
「勇者も魔族から見たらただの殺人鬼ってやつか」
「そういう実験なんかな。思考実験」
「思考ではないやろ。現実や」
「ナイフを手にする前からずっと試されてる気がする」
「……」
「ナイフが駄目なら、何を持てばいい?」
「……」
ナイフを拾った所に返した。
その後、善意の通行人が警察に届けた。
ナイフ 爪木庸平 @tumaki_yohei
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