第28話 死地3
人物紹介
モンゴル側
チャアダイ:チンギスと正妻ボルテの間の第2子
カラチャル:チャアダイ家の家臣。万人隊長。
人物紹介終了
南城への侵攻の方はといえば、それを委ねられたカラチャル万人隊はまだ都城の外に待機しておる。
まずはチャアダイ自ら率いる万人隊が橋前に集結を済ませた。南城と北城の間にかかる橋の奪取、および南城の北門攻略のためであった。
その余りの大軍振りに恐れをなしてであろう、橋を守っておった敵小部隊は戦うことなく引き退き、固く門を閉じた。
引き続いての投石機の搬入は昼夜を貫徹してなされたにもかかわらず丸一日を要してなお終わらなかった。全てはぬかるむ街路のせいであった。
城外にては泥溜まりのない小高くなっておる所を進めば良かったが、城内にてはそのような所はほぼ建物に占められており、ひるがえって、泥水は街路に集中的に流れ込み、泥濘としか呼ぶ他ないものとなり果てておった。更に投石機の部品は重く、ゆえに荷車はより一層はまり込み立ち往生すること度々であった。
駆り出されたのは、現地やサマルカンドやブハーラーで徴集された者たちであり、これらの者たちはモンゴル軍に殺されずには済んだとはいえ、苦しみは続いておった。予定通り進めねば、工兵隊長以下、主だった者の首をはねるぞと脅しつけたが、それで搬入が早まることはなかった。何とかなるものではなかったのである。
待ちきれぬチャアダイは、周囲の将の制止も聞かず、翌日の早朝には千人隊に、騎馬で橋を渡っての城門への接近を命じた。しかし無数に降りかかる敵の矢のために、接近することすらままならぬままに半数近くの兵を失うだけの結果となった。そうなってようやく、ここは投石隊の配備を待つしかないと理解したようであった。
結局搬入の完了までに8日を要した。
投石機を組立て始めると、敵は石を撃ち込んで来た。工兵隊は建物の影で組立てた後に配備したり、厚い板にて臨時の防壁としたりして、損害を防ごうとしたが、配備の完了までに三割近くの投石機が破壊された。
モンゴル軍側も組立てを終えたものから攻撃を始めた。ただし日中のみに限られた。無論、投弾そのものは夜間にても行うことができた。しかし橋までも破壊してしまうことは避けたかったので、明るい中で狙いを定める必要があったのである。焦れるチャアダイもさすがにその点は譲った。
これまでも水に浸して重量を増し威力を増した桑の幹を弾として用いておったモンゴル軍であるが、敵が水びたしにしたおかげで、放つまで水に浸しておくことができ、乾きを憂慮する必要もなかった。
敵による投石も続いておった。そもそもモンゴル側が投石機をずらり並べた運河の岸は、敵投石機の格好の標的の位置となってしまったようで、撃ち合いの中でモンゴル軍の投石機は次々と破壊されて行った。
本来はもっと後方に配置し、敵側の命中率を下げるべきであったが、そのためには建物を壊さねばならず、その手間をかけることをチャアダイは認めなかった。
モンゴル軍は城門を集中的に攻めた。
そして投弾を始めて三日目のこと、配備した投石機の六割を失いながらも、遂には城門を破壊し、瓦礫と化さしめた。周辺の城壁はあるところではうがたれ、あるところでは半ば崩れかけておった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます