第94話 第2次ファナーカト戦2:ティムール・マリクとブジル3

  人物紹介

 ホラズム側

ティムール・マリク:ホジェンド城主。今は船団を率いる。

 モンゴル側

ブジル 百人隊長 タタル氏族

  人物紹介終了




 ファナーカトの少し下流にて、アーハンガラーン川(現アングレン川)はシルダリヤに注ぎ入るが、もたらすのは水のみでなく土砂もまた、である。その堆積ゆえに、川中には幾つもの砂州ができるのだが。


 ブジルたちは、それらのうちで真ん中ほどにある最も大きなものに木造のやぐらを建て、船団がやって来るのを待ち構えておった。その出発と下流に向かったとの報が、ホジェンドに留まる上官のスイケトゥ・チェルビより入ったゆえである。


 川岸の方にも、別部隊を配置し、更には投石機まで並べておったが。無論のこと、敵は川岸に自ら近寄ることはなかろう。




 やがて、川上に一つ、船影が見えた。


 その数がみるみる増えて、それと共にその一つ一つが大きくなる。


 間近に迫るも、ブジルたちはなお動かず、そのまま通り過ぎるのを許す如くであったが。


 ガキッ、ガチャなどの鈍い金属音が続けざまにする。


(かかった)


 船はまるで何か見えぬものに船首を抑え込まれた如くに止まり、更には、少なからずの船が川の流れによって姿勢を保つを得ず、横向きとなってしまう。それでも下流に流れるということはない。


 ブジルの隊は、ここぞとばかり、船の1艘――装甲で守られておる船は避け、それらを除いて最も近くの船へと火矢を斉射する。


 やがて炎が燃え上がる。


 櫓の内から歓声が上がる。


「次だ」

 ブジルが叫ぶ。


 そうしてもう一艘を炎上させる。


 この時には、後続の船も到着し、まさに舷を接して連なる如くとなっておった。更にもう一艘というところで、一隻の装甲船が底を砂州に乗り上げるように迫り、そのまま船首を乗り上げる。


 その装甲に開けられた穴から、ホラズム兵が射かけて来る。敵のは通常の矢であったが、ブジルたちは火矢を射返す。ただ、刺さりこそすれ、装甲が燃え上がるということはなかった。


 やがてもう一隻の装甲船が左から乗り上げる。


 舷側に穴を開け、そこより櫂を突き出しており、それで他の船を押しのけて、ここまで漕いで来たのだ。比較的近くにおり、また船が重なっておらぬところにおった1隻が何とかたどり着くを得たのであろう。


 そちらにも矢を放たんとするが、最初に接岸した船より矢が飛んで来る。


 こうなっては、この2隻に対応するので精一杯であった。


 こちらは櫓上ゆえ相手より高みにおるという利点がある。問題は兵員が限られておることだった。何せ、中州ゆえ増援の期待のしようもないのだ。


 更に言えば、敵は装甲で守られ、こちらは櫓で守られておる。早々に矢の射かけ合いは膠着状態に陥り、ただ矢を無駄に撃ち合っておる状況となった。


 そんなときであった。


 不意に船が流れ出した。


「どうした。何が起きた」


 想わずブジルは側らの者――現地出身のこの策の責任者に尋ねておった。


「川に張った鎖が切られたのでしょう。恐らくこんなこともあろうかと考え、切断道具を用意しておったのだろうと想われます。この地では、しばしば使われる策ですので」


 見る間に周りから船はいなくなった。


 そして2隻の装甲船も水兵が中州に降りて、船を押して離岸させようとする。それへと矢を撃ち、数名は倒すが、敵船はその犠牲を置き去りにして離れて行った。

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