第5話 想定外の出来事

 今日は最終日。この日はとうとうサウスダコタの引っ越し先につくのだ。これから住む町はどんなところだろうと半ばわくわくしながら出発する。もう少しで目的地に着くと思うと走りも軽快だ。


 走り始めて数時間後、ミズーリ川にかかる橋を渡った。時計の時間が1時間進む。


 あれ、これどういうこと?


 サウスダコタの面白いところはミズーリ川を挟んで、州内で時差があることである。そう、サウスダコタの東側の町は西側の町より1時間時間が進んでいるのだ。

 ちなみに東側と西側では景色もちがう。東側はマウント・ラシュモアやバイソンがいる国立公園など山や森があり観光地でもあるが、西側は山もなく360度見渡せるような大平原が広がり、大豆やトウモロコシ畑、牧草地が広がっている。さえぎるものが全くないので、みずみずしい緑の畑のむこうには雲一つない青空が広がっている。


 畑の緑と空の青。その真ん中を車は地平線まで続いているかのように見えるまっすぐな道を走っていく。

 それからは相変わらず町といっても泊まる所があるかないかわからないような小さな町を時々通り過ぎながら、のどかな景色の中を進んでいった。


 昼ご飯は、引っ越し先の町より一つ手前の大きめの町で食べようと話していた時のことだ。

 旦那の携帯電話が鳴った。

 

 旦那が英語で何か話している。なんか焦っているみたいだ。

 それは引っ越し屋のトラックからの電話で、予定より早くサウスダコタに着いたので、明日の朝 荷物を届けたいとのことだった。


 「…………あ、明日?」


 今までののどかな雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。そんなことってあるの? 荷物って遅れて届くのが普通だったんじゃないの? 家も決まってないのにどうするの?


 その時私たちの頭の中には、町の路上に引っ越しの荷物が置いていかれ、その横で呆然と立ち尽くしている私たちの姿が思い浮かんだ。


「ここで考えてもしょうがない。やれるだけのことはやってみよう。」


 今は昼前だけど、引っ越し先までまだ3、4時間はゆうにかかる。

 今日は金曜日。

 明日の土曜日は不動産屋も開いていないかも、と思うと昼ご飯をのんびり食べている場合じゃない。

 「おなかすいた~」と文句を言うちびたちをごまかしながら、引っ越し先の町へ爆走した。

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