第3話 アメリカは広大な田舎だ

 2日目はザイオン国立公園から始まる。


 この辺りはもうちょっと足を延ばすとグランドキャニオン、荒野の中ににょっきり岩棚が並び立っているモニュメントバレーなど有名な国立公園が多く、赤く広がる大地と広大な景色はよくアメリカ西部劇の舞台になっている。


 旅の楽しみといえば寄り道だろう。今回はあまり時間は取れないが、せっかくなので通り道から一番近いザイオン国立公園で半日過ごすことにする。ザイオンはこじんまりとした国立公園だ。赤い岩壁がそそり立つ中、川が流れ、そのほとりには緑が豊かに生い茂っている。そしてこじんまりとしている分、すべてを間近に体験できてとても楽しい。トレイルを歩いていくと、岩壁から染み出した水がシダを伝って落ちてきたりして子供たちは大喜び。一番奥にある川中をバシャバシャ歩いていくトレイルなんかは大はしゃぎで、びっしょりになりながら楽しんでいた。


 いつまでも楽しみたいところ、先のことを考えて昼過ぎにはザイオンを後にする。

 今日はまだこの後、ソルトレイクまで約5時間も走らなくてはならないのだ。


 車は乾燥した荒野に戻り目的地に向かってひた走る。。ソルトレイクは塩の湖という名前のとおり、町の西側には塩分の高い湖が広がり、乾燥した部分は白く岩塩がむき出しになっている。ちなみに2002年に、冬季オリンピックが開催された場所だ。


 途中、制限時速が80マイル(約130㎞)になっていて驚いた。


 大体アメリカでは、街中のフリーウェイ(高速道路)の制限時速は60~65(97~105km)マイルくらいで、郊外でも70マイル(113km)くらいだ。「これだけ道路がまっすぐだったら80マイルでも大丈夫でしょうよ。ここってどれだけ田舎なの。すごいねぇ。」と私たちは笑いあった。

 

 しかし、のんきに「田舎~」と笑っていた私たちは、のちに住むことになるサウスダコタ州のフリーウェイのほとんどの制限時速が80マイル(むちゃくちゃ田舎やん!)になることをこの時はまだ知らない。


 そして3日目を迎えた。今日はソルトレイクから北へ向かって約7時間、距離でいうと東京から姫路くらいを走る予定だ。


 ソルトレイクを出てからしばらくはまだ乾燥地帯だったが、次第に景色が変わり濃い緑の畑が続くようになる。アイダホ州のジャガイモ畑のようだ。

(アイダホポテトっていうもんねぇ。)


 そして景色は次に柔らかな緑の牧草地に変わる。アメリカの中でも北部のモンタナ州だ。乾燥したところを通ってきた私たちにはやわらかい緑が輝いて見える。(ここの牛たちはおいしい草が食べられて幸せだなぁ)と思う。しかし、景色が輝いてみえたのもはじめのうちだけ。牧草地。牛。牧草地。牛。今度はそれがひたすら続くのだ。


 アメリカ大陸を車で走ってみるとよくわかる。アメリカは広大な田舎である。

ロサンジェルスやニューヨークなどは大都会で人口も集中しているが、それはアメリカのほんの一部。大部分は走っても走っても変わらない景色。荒野であったり、畑であったり、牧草地であったり。住む人もまばらな田舎なのだ。


 移動中、子供がトイレに行きたくなっても道沿いになにもないことがよくあった。子供はどうしてか、数少ない町を通り過ぎた直後に「おしっこ!」なんて言ったりするものだ。次の町は60km先。そんなことばかりが続き、旅が始まってしばらくすると、トイレと給油は早めに済ませる癖がついた。

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