岡田 拓磨さん
大っぴらにはできないことだが、
彼自身は盗聴器を仕掛けたことがないが、他人が仕掛けた盗聴機の情報を闇サイトで入手し、電波を傍受して楽しんでいた。
ある日、闇サイトへの新しい投稿が、彼の目に留まった。
「JR○○駅北口の○○ホテル401号室に仕込んであります」
某ラブホテルの1室である。
投稿者のIDには見覚えがあった。
以前、この人の情報で聴きに行った場所が当たりだったのだ。
「これは楽しみだな」
拓磨はその晩に早速現地へ車を走らせた。
ホテルの付近に到着すると、裏手に人通りの少ない道路があったので、車を路肩に停める。
車内で受信機の周波数を調整していると、ほどなくして傍受に成功した。
やや聴こえは悪かったが、他人が仕掛けたものなので文句は言えない。
残念ながら、その声は望んでいるようなものではなかった。
どうやらコトはすでに終えているらしい。
男の人の声が聴こえてきた。
「どこ…処分………か?」
「知らな………勝手に…なさいよ」
女の人の声を聴く限り、あまり機嫌がよくないようだ。
「○○川の二股になって…………どうだろ……」
「好きに………」
拓磨はリクライニングを倒して腕を組んだ。
ピロートークには興味がないので、退室するまでは寝ていようと目をつむる。
気がついたときには数時間が経っていた。
どうやら次のカップルも退室したあとのようだ。室内を掃除する音が聴こえてくる。
「あーくそっ、 寝すぎた……」
盗聴を始めた頃ほどの興奮が、最近は生まれなくなっている。
彼は翌日も仕事があったので、その晩は去ることにした。
***
それから月日が流れ、約2年が経った頃だ。
朝の身支度をしながら、拓磨はテレビを見ていた。
占いのコーナーのあとに、アナウンサーがわざとらしく険しい表情を作ると、ニュースを読み上げる。
「昨日17:00頃、○○川の下流にある土手に、乳児のものと見られる白骨化遺体が見つかりました。警察の調べによると、死後1年以上が経過しているとのことです」
テレビ画面には、川の中洲部分で警察が話し合っている姿が映し出されている。
「怖いニュースがあるもんだな」
彼は当初、その程度の感想しか持たなかった。
しかし、寝癖を直すために頭を濡らし始めたときだった。
目をつむると頭のなかから遠い記憶が呼び起こされてきた。
その声は驚くほど鮮明に聞こえてくる。
「どこで死体処分しようか?」
「知らないわよ。勝手に決めなさいよ」
「○○川の二股になってるところどうだろう?」
「好きにすれば」
顔をあげると、鏡には顔面蒼白になった自分の顔が写っている。
結局、その会話は自分の妄想が作り出したものなのか、あるいは確かな記憶からくるものなのか判断がつかなかった。
しかし、仮に事件に関係していたとしても、彼は警察に協力することができない。
事件は未だに解決していないという。
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