懺悔
あいうら
田中 里花子さん
マンションの6階に住んでいる
4階に住む脇坂さん宅のベランダに、駿くんがいるのが目に入った。
駿くんは小学2年生で、里花子の子供と同級生だ。
何度か家に遊びに来たこともあり、子供同士はもちろんのこと、母親同士も顔見知りだった。
いつもであれば全く気に留めないのだが、そのとき里花子は違和感を覚えた。
ベランダに出ている駿くんは、体育座りのような格好で、窓側の方を向いている。
特に何をするわけでもなく、ただひたすら、その体勢のままじっとしているのだ。
変だなとは思いつつも、しばらくは手を止めなかったが、少し心配になった。
――もしかすると、駿くんがベランダにいるのを知らずに、中から鍵をかけてしまったのかもしれない。
念のため声をかけてみることにした。
「駿くーん、どうしたの? 大丈夫?」
6階から4階までは少し距離があるので、声を張り上げた。
すると、駿くんは「びくっ」と身体を震わせて、とっさに立ち上がった。
なぜだかとても慌てているように見える。
――急に声をかけてびっくりさせちゃったかしら…
駿くんは声の主がこちらだとは気付いていないらしく、キョロキョロと辺りを見回している。
里花子がさらに声をかけようとしたその時、ベランダのドアがガラガラと音を立てながら開いた。
そして、駿くんは男の人に手を引かれて部屋の中へと入っていった。
「お父さんが気づいたようね。部屋に入れたようでよかったわ」
彼女は安堵すると、残りの洗濯物に手をかけた。
***
翌日、里花子がゴミを出しにマンションの1階まで降りていくと、エントランスに何人もの警察官がいた。
――何か事件でもあったのかしら。
ゴミを出し終えて6階まで戻ると、家の前でお隣さんから声をかけられた。
「あら、田中さんところの奥さん! ねえ聞いた? 事件のこと」
「いえ、何かあったんですか?」
「ほら、下に警察がいっぱい来てるでしょ。なんでも脇坂さんの家に昨日強盗が入ったらしいのよ」
「えっ…」
「可哀想なことに1人で留守番してた駿くんが襲われて、殺されちゃったんだって」
お隣さんは神妙な面持ちで口を動かし続けているが、里花子の耳には一切話が入ってこなくなった。
昨日ベランダで見た駿くんの姿が甦る。
里花子は震える手で口許を覆うと、くぐもった声で呟いた。
「私のせいで見つかってしまったんだわ」
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