駆けて、賭けて
シヨゥ
第1話
「今この一瞬に賭ける!」
そう言って彼が勝った馬券は数時間のうちに紙くずになった。
「なんでいけると思ったんだろうか」
そう言って彼は頭を抱えている。
「その瞬間、馬券を買うという行為に興奮していたんじゃない?」
そんな彼に僕は冷ややかに返事をした。
「いや冷静だったはず。競馬新聞読んで、ネットの予想も読み込んで冷静に判断したはず」
「判断した瞬間はね。買うという決断を下した瞬間は?」
「……冷静じゃなかったかも」
「お金を使うという行為に多少なりと人は興奮を覚えるんだよ」
「だからか……本能じゃ仕方がないな」
「後悔するのもまた人間特有かもね。動物だったら命を落としているか、命をつないでいても経験を糧にしようと前を向いていると思うよ」
「つまりだ。お前は今回の失敗を糧にしてまた馬券を買えと言うことだな」
「そういうことじゃ――」
「よし分かった。次こそ当ててやろうじゃないか」
物は言いようとはこのことだろう。彼の頭はすでに次のレースのことでいっぱいになっている。
「賭け事で学ぶのはもう賭けないということじゃないかと思うんだけれども」
そんな言葉は彼の耳には入らないだろう。なら今度は当たり馬券を買うことを願っていようと思う。そしてわずかでもおこぼれにあずかれますように。
駆けて、賭けて シヨゥ @Shiyoxu
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