第5話「今から俺がお前たちのリーダーだ」
俺の分身が、それぞれ駆け出していく。
勝負は一瞬でついた。
「俺の分身、よっわ……」
俺の分身達はブラックゴールドウルフ達と対峙し、タックルをされて全員が吹き飛ばされた。
「ちょっ、ちょっと! あれだけ格好つけておいて何ですか?」
「ラル達の勝ちだ! まだやるか?」
少女もブラックゴールドウルフもフンスと鼻息を鳴らし、勝ち誇ったような顔をしている。
対照的に、ベル達はあたふたしている。
「次はクーがやる!」
「ボクもやります!」
「いや、お前らは良い。下がってろ」
「今負けたばかりじゃないですか」
「言ったろ? 試したいスキルがあるって」
『影分身』によって出された分身は、本体の半分程度の能力になる。
3体出した場合は、その半分程度の能力をさらに3等分にされる。実質俺の6分の1程度の能力だ。
はっきり言って弱い。クーと戦っても勝てないだろう。
「それじゃあ、喧嘩の続きと行こうか」
俺の分身一体が、ラル達の元へ走り出す。
そして、手を叩き『プロヴォーク』を発動させた。
「あっ、ちょっと!」
人間のラルには掛からないが、モンスターのブラックゴールドウルフには見事にかかったようだ。
5匹が俺の分身目掛けて一斉に飛び掛かる。
切り裂き、嚙み千切り、俺の分身はこのままだとバラバラになるだろう。
だが、分身の俺にはビクともしていない。
俺の分身は『プロヴォーク』と同時に、ギルドマスターに『鑑定』して覚えた盾戦士のレアスキル『金剛』を発動させていたからだ。
効果は1分ほどだが、耐久力と耐性が物凄く上がる。耐久や耐性を上げるスキルは色々あるが、それら全てが『金剛』に比べれば下位互換と言われてしまうほどだ。
すさまじい耐久を得る代わりに、動きづらくなるのが難点だ。それと、どれだけ鍛えた人間でも翌日筋肉痛になる副作用がある。
『プロヴォーク』の効果が切れ、ようやく我に返り、標的を変えるためにブラックゴールドウルフはこちらを向く。
「もう遅い!」
もう1人の分身が、手の平から息を吹きかける。アサシンのレアスキル『
一定範囲にあらゆる種類の神経毒を振りまくスキル。
毒の種類が多いため、毒に耐性を持っていてもそうそうレジストされる事は無い。
毒により、ブラックゴールドウルフ達はその場に倒れ痙攣した。完全に戦闘不能だ。
その場にいた俺の分身と、『蟲毒ノ霧』を使った分身の2体も一緒にだ。
範囲が目に見えないので、慎重に使わないと、このように自分や仲間を巻き込むことがある。
今回のは巻き込み上等でやったわけだが。
このまま放置してたら、俺の分身はともかく、
もう残り1体の分身に治療をさせるか。蟲毒ノ霧の範囲や効果時間を俺自身がまだ完全に把握できていないから、モルガンが治療に向かうのは危険だろうし。
「さてと、最後はタイマンと行こうぜ!」
「ぐぅぅぅぅ……ワン!」
ラルの鳴き声と共に、俺の腹にドンと衝撃がぶつかる。
鳴き声に魔力を込める事で音の球を発生させる、モンスタースキルだ。
「ぐっ!」
踏ん張り、何とか堪えている所に、ラルが右手を振りかざし追撃しにきた。
しかし、そんな所から手を振りかざしても、2、3歩分距離が足りないだろう。
なのに、凄く嫌な予感がした。
「なるほどな……」
咄嗟に避けると、先ほど俺が居た場所の少し後ろにあった木が、真っ二つに裂けるのが見えた。
こちらもモンスタースキルだろう。真空の刃を腕にまとい切り裂くという、上位のウルフ系モンスターが持つスキルだ。
こちらが離れれば音の球が飛んできて、近づけば間合いの読めない真空の刃。
そして体さばきはモンスター特有の動きに、武闘家辺りのスキルがいくつかあるのだろう。
幾重にもかけた補助(バフ)スキルと回避スキルのおかげで、今の所なんとか避けられてはいるが、そろそろ厳しいな。
「ラル。お前のスキルは今出したので全てか?」
「そうだ! もう降参するか!?」
「いや、降参はしないが、もう終わらせよう」
ギルドマスターから取得した、4つ目のレアスキルを発動させた。
「かはっ!」
アサシン系レアスキル『縮地』。その場に残像を残し、一瞬で相手に近づくスキル。
『縮地』による超高速の移動速度を乗せた俺の拳が、ラルのみぞおちにクリーンヒットした。
肺の空気を全て吐きだし、そのまま気を失ったようだ。
「俺の勝ちだな」
★ ★ ★
「きゅ~ん」
「別に悪いようにはしないから、そんな声を出すな」
まるで犬っころだ。これが討伐ランクCのモンスターだとはとても思えない。
気絶したラルに寄り添いながら、時折こちらを見ては気の抜けた情けない声をかけて来る。完全に心が折れているのだろう。
「アンリさん本当に一人で倒すなんて、凄いですね」
言葉と裏腹に、ベルは少し寂しそうな顔をしている。
全く。そっとベルの頭に手を置き、ポンポンと軽く叩く。
「当たり前だ。お前らとは経験が違うからな。むしろ冒険者になってまだ一月程度のお前らに同じ事をされたら俺のメンツが立たん」
これでも数年は冒険者をやってきたわけだからな。
実力差を感じて焦る気持ちは分かるが、ベル達だって時間をかければ出来るようになる。
まずはやれる事を一つずつ増やしていく事が大事だ。
「そう言われると、余計やりたくなります」
「クーもやるぞ!」
「ったく、ほどほどにな」
苦笑してブラックゴールドウルフ達を見ると、気まずそうに目を逸らされた。
俺達はもうやりませんと言わんばかりだ。その表情が可笑しくてまた苦笑してしまう。
「うぅん」
「どうやら目が覚めたようだな」
「……」
一瞬だけ俺をキッと睨むが、すぐにやめた。負けを認めた、という事だろうか?
ラルの耳としっぽは垂れ下がり、眉毛をへの字にして俺を見ている。
「ここは俺の縄張りだ。出ていけ」
俺の言葉にラルは首を横に振った。
「まだやらないと気が済まないのか?」
更に首を横に振られる。
ここに来てごねると来たか。
「……ひっぐ、うぇ、うぇええええん」
わんわんと泣き始めた。
なんとか泣き止むように言うが、首を振り回してイヤイヤするだけで、もはや完全に駄々をこねるガキだ。
「おい。そんな顔で俺を見るな」
ブラックゴールドウルフ達が、きゅ~んと情けない声を出しながら、困った顔で俺を見る。
ベル達も同じような顔で俺を見ている。モルガンが若干ニヤけているがこの際無視だ。
ここで泣いてて可哀そうだから諦めましょうで済ませれば、ベルの集落の人間が困るというのに。
「あー、もう。分かった。分かったから」
はぁ、仕方がない。
「ラル。今から俺がお前たちのリーダーだ。俺の意見に従え。そしたらここに住む許可をやる。良いな?」
ラルは両手で涙を拭きながら頷いた。
「お前らも、良いな?」
「ワン!」
はぁ。集落の人達になんて説明しようか。
頭を抱えてその場でうずくまる俺を、ブラックゴールドウルフ達がぺろぺろと舐めて慰めてくれた。現金な奴らだ。
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