第8話「そいつらぶっ飛ばしに行こう!」

「パーティ結成を祝して。カンパイ!」


「「「カンパイ!」」」


 乾杯に合わせて、俺達はそれぞれコップを合わせた。

 ドーガ達に金銭と装備を奪われ、無一文になったせいでここしばらくは節約生活だった。

 もしベル達にパーティを拒まれた時の事を考えて、貯えをしておいたが、今回正式にパーティを組むことが出来た。

 これで金の心配は減ったから、今日は少しハメを外す事にした。久しぶりに飲んだエールは、言葉に出来ない程美味い。


「ぷはぁ~!」


 仕事終わりの、この一杯が最高なんだよな。


「アンリさん、なんだかお父さんみたいだね」


「おっさん! おっさん!」


「誰が親父臭いだ。そもそもクー、お前は俺よりも年上だろ」


 ため息をつきたくなるが、そんな事をすればせっかくの酒が不味くなる。

 ため息をエールと共に飲み込む。


 追加注文をした酒に合わせ、料理が次々と運ばれてくる。

 酒と肉。この食い合わせは本当に最高だと思う。

 特に酒場なだけあって、味付けはかなりくどくて良い。頼んだ肉は油で煌めいてるくらいだ。

 こんなの、酒も飲まずに食ったらすぐに胸やけしそうだ。


「おい、クー。勝手に人の肉を食うな」


「じゃあクーの野菜と交換」


 コイツ嫌いな野菜を押し付けようとしてるだけじゃないかと思ったが、俺の皿には酒に合う物を置いているから、一応は考えてはいるようだ。 

 遠慮なしに俺の肉を食ったと思ったら、今度はモルガンの料理に手を付けようとしている。食い意地の張った奴だ。


 当然のようにモルガンに頭をはたかれ、行儀が悪いと叱られている。いつもの光景だ。

 クーを一通り叱ったモルガンが、俺に目を向けた。


「ところでアンリ。一つ良いですか?」


「どうした?」


「その、お酒を飲むときに、チラチラと警戒したような目で見るのはやめて欲しいのですが」


「あぁ……すまん」


 そんな事をしていたつもりはなかったのだが、無意識で警戒してしまっていたか。

 どうも、ドーガ達にやられたことがトラウマになっているようだ。

 こいつらはそんな事をしない。頭ではわかって居るはずなのに。


「前のパーティに酔った所を襲われたから、ですか?」


「なんでそれを……いや、知ってておかしくないか」


 冒険者間で俺の事が色々言われてるのだから、ベル達の耳に入っていたとしてもおかしくない。


「気分を害させたなら謝る。俺はまだ前のパーティの事を引きずってるのかもしれない」


「何があったのですか?」


 どんな風に聞かされたか分からないし、ちゃんと伝えておくべきか。パーティを組むわけなのだから。


「そうだな、あれはBランクに昇格した時の話だ」


 コップをグイっとあおり、中身を空にしてから、俺はあの日の事をぽつりと話し始めた。



 ★ ★ ★



「酷い話ですね」


 珍しくモルガンが不快を露わにしている。

 あまりその手の感情は表に出さないモルガンが、隠そうともせずに吐き捨てた。


「その人たちは、クズですね」


「アンちゃん! そいつらぶっ飛ばしに行こう!」


「ぶっ飛ばしにって、クーあまり物騒な事を言わない方が良いぞ」

 

 どこで誰が聞き耳を立てているか分からない。

 変な事を言って、もしドーガ達に何かあったら、真っ先に俺達が疑われる結果になる。

 俺もそうだが、早々に昇格した彼女たちも冒険者からは妬みの対象になっている可能性は高い。


「アンリは、悔しくないんですか?」


「そうだな。そりゃあ最初は悔しかったけど。今は仕方がなかったって感じだな」


「冷めてますね」


「冷めているのかもな」


 かつて、災害を俺一人が生き残った。

 村の人も、友達も、親も全員が死んだのに、俺だけが生き残った。

 その時に人生の運を使い果たした。俺はそう思っているし、そう思う事で大抵の事は諦めがついた。


「アンリ。何があったのですか?」


「何がって?」


「私もクーも、村では良い扱いではなかったです」


「……」 


「ベルさんだって、その、家庭の事情は余り良くなかったけど、貴方のように腐らなかった。貴方は何があったのですか?」


「面白くない話だぞ?」


「ボク、アンリさんの事知りたいです!」


「私は村の教会の懺悔室で面白くない話はいっぱい聞いてきたので、平気ですよ」


 こいつらの過去を知っておいて、自分の過去を語らないのはフェアじゃないな。

 あまり語るような事じゃないんだが、まぁ酒のさかなと思って話すか。


 俺はもう1杯エールを注文し、話し始めた。


「そうだな。始まりは今から10年前にあった、モンスター大災害だ」

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