「専門職に劣るから居ても邪魔だ」とパーティから追放された万能勇者、誰もパーティを組んでくれないので、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。ちなみに俺を追放した連中は勝手に自滅してるもよう。
138ネコ
第1章
第1話「お前は今日限りでパーティから追放だ」
「アンリ、お前は今日限りでパーティから追放だ!」
「……はぁ?」
それは突然のパーティ追放宣言だった。
俺、戦士、魔法使い、僧侶の4人でパーティを組んで数年。冒険者ギルドでBランクに昇格した事を、先ほどまで皆で祝った帰り道だった。
追放を切り出したのは大男の戦士ドーガ。その後ろに隠れるように魔法使いカテジナと僧侶シャルロットが移動した。ドーガが大男なのもあるが、彼女達は華奢だから文字通り隠れる感じになってるが、そこはどうでも良い。
「えっ、何で?」
夜中まで飲んでいたせいで、酔った頭では言われた事を理解するのに、数秒の時間がかかった。
俺の言葉に、ドーガは鼻で笑った。
「何でって、分からないのか?」
「分からないから聞いているんだろ?」
唐突に追放と言われても、何がいけなかったのだろうか?
ずっと一緒に居て、喧嘩をすることもあった。だけど、そんな事を言い出したのは今回が初めてだ。
報酬は揉めないように、取り分をちゃんと4人で分配しているし、依頼を受ける際に相談だってしている。
「追放というのは分かった。でも何で追放なのか、不満があったのなら教えて欲しい。この通りだ」
俺はそう言って、頭を下げた。
ドーガ達が追放だと言うのなら、パーティで決めた事だ。俺は食い下がるつもりはない。
長年連れ添った仲間なのに薄情だと思われるかもしれないが、俺は彼らの意思を尊重してあげたい。
だけど理由が聞きたかった。俺自身が直さないといけない所があるなら、直そうと思っている。
そうしないと彼らと別れた後に、他の誰かとパーティを組んでも同じように追放される可能性がある。
「ハッ! 不満ねぇ……」
もう一度ドーガが鼻で笑うと、彼はカテジナとシャルロットに顔を向けた。
ドーガと目が合うと、カテジナとシャルロットはクスクスと笑い始める。
「どうしても教えて欲しいなら教えてやるよ。お前は勇者を万能職だと言っているが、近接では戦士に劣って、魔法では魔法使いに劣って、回復では僧侶に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
俺が居ても邪魔なだけ?
ユニークスキル『オールラウンダー』を持つ俺は、全てのスキルに適性がある。だけど専門職と比べると、どうしても今一つ効果が劣る。だからパーティの穴埋めとして裏方に徹する戦い方をしてきた。
それに、俺の事を万能職だなんだと周りに吹聴してたのはお前達だろ。
どうしても
とはいえ、その全ての行動が正解だったと自惚れるつもりはない。
戦闘以外にも、モンスターの警戒や、夜の哨戒、その他諸々を俺がやってきた。だがそれを伝えてもドーガ達は鼻で笑うだけで、まともに取り合ってくれやしない。
「言っとくが、もうお前の代わりは見つけてあるからな」
ドーガがニヤリと笑う刹那、背中に悪寒が走った。
咄嗟に剣を引き抜き、振り向くと、一瞬一筋の光が見えた。
その光を剣で弾くと、カランと音をたて地面に落ちた。光の正体はナイフだった。
「酔っているというのに、中々の反応速度ね」
暗闇から出てきた女が、忌々しい目で俺を見てくる。
「何を考えているんだ? 危ないだろ」
短い投擲用ナイフだが、当たりどころが悪ければケガだってするし、死ぬ危険性だってある。
それを初対面の相手に、気配を消して投げてくるのは非常識にも程がある。
俺が女に対し狼狽えていると、カテジナとシャルロットの笑い声が聞こえた。なるほど、つまり、この女はドーガ達の仲間か。
「彼女がお前の代わりに、パーティに入ってくれる盗賊のミーシャだ。本職だけあって、どこぞの万能職様が使う『気配感知』スキルとは大違いだぜ?」
ミーシャの隣に立ち、馴れ馴れしく肩に手をやるドーガ。ミーシャはドーガの態度を気にしていない様子で、俺を睨みつけたままだ。
盗賊か、確かに俺が盗賊のスキルを使っても、この女ほど隠密行動が上手くいかないだろうし、俺よりも高い精度の『気配感知』スキルを使えるだろう。
「お前達の気持ちは良く分かった。もう会う事もないだろうし、会うつもりもない。じゃあな」
こんな奴らを本気で仲間だと思って、さっきまで仲良く酒を飲んでいたと思うと自分が悲しくなってくる。
こいつらに対して憎い気持ちはあるが、それ以上に自分の人を見る目の無さが恨めしい。
「おい。待てよ」
「何だよ。まだ用があるのか?」
「お前が今までサボってきた分の慰謝料を払ってもらうぜ。有り金と装備を全部よこせ。それで手打ちにしてやるよ」
「ふざっ……」
ふざけるなと言おうとした所で、視界がぐにゃっと回り始めた。
「ようやく効いてきたようだな。悪いが酒に一杯盛らせてもらったぜ。俺たちの新たな門出の第一歩だ。こんな所で変なケガを負いたくないからな」
思うように動かない体でまともな抵抗が出来るわけもなく、俺はサンドバッグのように殴られるしかなかった。
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