最凶魔王と因縁の女勇者~神様によって日本に転生させられた二人は、そこでようやく決着をつけるようです。
幕画ふぃん
第1話 魔王、転生させられる
俺の名はフェルツ。ここ、ヘルヘイムで暴虐の限りを尽くし、あらゆる者から恐れられている最凶の魔王だ。
だがそんな俺に、愚かにも立ち向かってくる人間がいる。そいつの名は女勇者カリン。無謀にも今、俺の目の前に立ちはだかっている者だ。
しかしコイツが中々に手強い。数多の勝負を挑まれるも、それでもなお決着が着かないのだ。それでも俺は、魔王として勝負から逃げる訳にはいかない。今日こそは必ずや決着をつけてやる。なのに――――。
「――どうして貴様がいる!? 神ゼゼーウス!」
「ほっほっほっ。どうして、と言われてもなぁ。神様なんだから別に自由じゃろ?」
神ゼゼーウス。不服にもこの俺を差し置いてヘルヘイム全土を支配する神だ。こうして俺の眼の前に現れる事は少なくない。が、いつも事あるごとに、俺の邪魔ばかりをする厄介な老いぼれだ。
「だからと言って貴様に俺の邪魔をされる筋合いはない。見てわからないのか? いま俺は、勇者カリンと激闘を繰り広げている最中なのだぞ!?」
「ふんっ、だから来たのじゃよ」
「何っ!?」
「フェルツよ。今、カリンと戦って何回目になるか知っておるか?」
「さぁ、な。そのようなくだらん事はいちいち数えていない」
「じゃあ、カリンよ。お主は知っておるか?」
「九百九十九回目、となります」
そう答えたのは俺の宿敵、勇者カリン。女であるにも関わらず、その実力はヘルヘイム随一だ。聖剣を駆使した可憐で激しいその圧倒的な攻撃スタイルは、敵ながら見事としか言いようがない。スタイルついでに言うと、カリンは人間にしてはなかなかにグラマラスな容姿だ。特に鎧の隙間から見える腰のくびれの辺りがたまらない。トパーズのような美しい前髪をかきあげるその姿は、とてもセクシーだ。しかし……そのようないかに魅力的な女だとしても、俺の敵であることには変わりない。
「そう。それだけの争いを続けてなお、未だに決着が着かんとは……」
「だからこうして、今も戦っているのではないか!」
「いいや、もはやお主らだけでは決着は着けられん。そこで……ワシからひとつ提案がある」
ゼゼーウスは指をひとつ立てて、微笑した。気持ちの悪い、何かを企んでいるような笑みだ。
「ふん。まぁいい、聞いてやろう」
「カリンもよいかな?」
「えぇ。伺います」
そしてゼゼーウスは、軽く咳払いをして話し始めた。
俺とカリンは黙ったまま、それを聞く。
「お主らには、こことは別の世界で”とある勝負”を受けてもらう」
「勝負、だと? それでは今となにひとつ変わらんではないか」
「まぁフェルツよ、最後まで聞け。その勝負に勝った者は、ここ――ヘルヘイムを煮るなり焼くなり好きにしてもいい。どうじゃ? 少しはやってみる気になったか?」
何やら挑発的な笑みでゼゼーウスは俺に視線を飛ばしてくる。恐らく、秘密裏にくだらん考えでもあるのだろう。しかし俺は魔王だ。そのような思惑さえも全て吹き飛ばし、勇者カリンに勝利してみせる。故に、俺の返答はただひとつ。
「いいだろう。受けてやる。どのような勝負とて、俺の勝ちは揺るがないのだからな」
「さすがは魔王フェルツ。お主ならきっとそう言うと思っとったよ。して――カリンはどうじゃ?」
「……受けます!」
「ほっほっほっ。よろしい。では早速、ごきげんよう」
ゼゼーウスはそう言うと、フッと姿を消した。直後、頭上から光が降り注ぐ。その光は俺とカリンを包み込み、そして――――――。
* * *
俺は、見覚えのない場所で目覚めた。
そしてすぐさま周囲を見渡す。モンスターは見当たらず、辺りには灰色の建造物がいくつも立ち並んでいる。肌に感じる空気も、気温も、景色も、ヘルヘイムとは一線を画している。なるほど、ここが別の世界……ということだろう。
すると俺の脳内に直接、あの声が語りかけてきた。
「ほっほっほっ。フェルツよ、無事に転生できて何よりじゃ」
「ん? 転生……だと!? 話しが違うぞ!?」
「別の世界、と言ったじゃろう? 別の世界に行くためには”転生”しかないじゃろが」
くっ、ゼゼーウスめ。図ったな! こうして俺を弱める事が目的だったか。と、唇を噛み締める。
「まぁ、まずは説明しよう。ここはとある世界の日本という国。そしてここは光星学園という学校じゃ。お主はそこに在学する、十七歳の高校生として転生したのじゃ」
「コウセイガクエン? コウコウセイ? 何だ、それは」
「心配せんでも後でざっと教えてやるわい。そしてこの学園にはもうひとり、転生者がいる」
「……カリンか」
「大正解――――と言っても、お主とは違って名前も姿も違うし、以前の記憶も消してあるがの」
ゼゼーウスは、いつもの何かを企んだ気持ちの悪い笑みを浮かべている。しかし気になるのはカリンが以前の姿ではなく転生したという事だ。以前のあのグラマラスでセクシーな姿がもう見れないと思うと、何か大事なものを失ったかのような喪失感が俺の胸を覆う。
「――で、そうまでして俺はここでどうしろと?」
「ほっほっほ。勝負はいたって簡単。この学園に転生した勇者カリンを見つけ出し、手中に収める事」
「手中……? 俺の手下にでもしろと言うのか?」
「まぁ、意味として間違ってないかもしれんが……。もっと簡単に言えば……付き合うって事じゃ」
つ、付き合う……!? 俺とカリンがか!? そ、そんな事…………ゴクリ。
「期限は一週間。期限内に無事、勇者カリンと付き合うことができれば、お主の勝ち。もしできなければ、お主の負け。ヘルヘイムには戻れず、このままこの世界で生きてもらう」
「ふむ。わかった―――――ん? なん……だと……!?」
負ければヘルヘイムに戻れない!? この意味不明な世界に取り残されるというのか!? くっ、それは魔王として、断じて許されない事だ。
「どうじゃ? やっぱり辞めるかの?」
「ふん、くだらん。言っただろう? 俺の勝ちは揺るがない、とな。せいぜい高みの見物でもしていろ」
「ほっほっほ。よろしい。ではせめてもの情けじゃ。この世界の簡単な知識をちょっとだけお主にくれてやる。ほーれ」
そのゼゼーウスの声の直後、俺の脳内に様々な情報が一挙として駆け巡る。
「うっ………………!!」
俺が知ったこの世界の常識、言語、知識――それらは、ヘルヘイムとはまるでかけ離れていた。
膨大な量の情報を一気に詰め込まれたせいか、頭が割れそうなほど激しい頭痛と震えに襲われる。しばらくその場に
俺はその場にすっと立ち上がる。
「ふう……なるほど。この世界もヘルヘイムとは違って中々に面白そうだ。だが俺の目的はただひとつ。勇者カリン…………お前を手に入れる事だ!!」
俺は自信満々に、校門へと向かって歩き出した。胸に刻まれた”山田フェルツ”の刺繍を輝かせながら。
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