第三話『新たな技と新たな決意』
私が火魔法を獲得してからおよそ2、3日の時間が経った。
あれから生きる為に色々と考えた結果、私は一日を明確に昼の時間と夜の時間にわけ、太陽の満ち欠けで行動を決める事にしたのだ。
まず、昼の時間。
昼の時間は主に洞窟周辺の調査と、あの緑の変態(友人に聞いた話から暫定的に魔物と呼称)の生存区域の把握。
また、食べれそうな植物や使えそうな木材、石材その他諸々の採取などをする時間に当てた。
森から脱出するのが目標といっても、村の方角もわからないし森についても詳しくない。
そんな状況で脱出できるとは思えないし、まずは洞窟での生活を安定させるところから始めようと思ったわけなのだよ。
そして、夜の時間。
夜の時間はスキルの調査や魔法の練習、生活をより良くするための道具を作ったり、今後の計画を立てる時間だ。
まぁやってる事とすれば、焼きヴリエの実を作ったり槍作ったり、そのぐらいの事しかしていないのだが。
しかし、我ながら本当に頑張っているぞ?
本来ならばずっとおふとんにくるまっていたい気持ちを抑え込ん
で行動しているのだ。
それだけでもすごいのに、見知らぬ森の中でちゃんと生き残っているという事実たるや。生きているだけで大金星である。
こんなにも頑張っているのは、会社をクビになって絶望していた時に生活のため死に物狂いで資金稼ぎした時と、その後の高性能移動式ふとんを作っていた時ぐらいだ。
退職時期は割と死にかけてたからな……
もやし、もやし、もやしだった。あ、これ私の一日の献立な?
きっと、私はあの人の助けがなければ今頃───
「……」
……と、まぁこの話はこれぐらいにして、この三日間の私の成果を見せることにしよう!
さぁ刮目せよ、私のステータス!そして戦け、私のステータス!
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永巳 叶夢(ながみ かなむ) 性別︰女 種族︰人間
レベル︰3 MP︰50
スキル
〘研究︰7〙〘思考︰7〙〘集中︰9〙〘睡眠︰8〙
〘火魔法︰3〙〘創作︰1〙
固有スキル
〘ふとん召喚〙
スキルポイント︰2 スキル検索︰
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「うむ……!着実に成長している!」
この三日でレベルがそうそうに上がり3へ、それに伴ってMPが50、スキルポイントは2になったのだよ。
この結果から見ておそらくの推論なのだが、レベルが1上がる事にMPプラス5、スキルポイントがプラス1されると予想した。
これで合っているかはまだ分からない。だからまぁ、今後の経過を見てって感じだな!
そして、肝心のスキルだ!
火魔法を使い続けたおかげで既に3に、そして集中が1上がったことに加え……
なんとなんと!新たなスキル創作を手に入れたのだ!しかも無償で!
いやー何故かわからんがスキルポイントを使わずに創作を手に入れられたのは僥倖だった。
次5ポイント溜まったら取ろうと思ってたからな!
うん。1歩1歩強くなっていて嬉しいよ。
おっとそうだ。
そういえば、まだ情報があるんだった。
この三日間昼の間活動して、私が森で得た情報を公開しようと思う。
まず、どうやらこの洞窟の周辺は害になりそうな魔物は居ないようだった。
ここはヴリエの実の群生地のようで、洞窟を囲む様にぐるっとヴリエの木が生えている。だから、食料に困ることは無いだろう。
そして、1番重要なのはその先だ。
その先には、魔物の集落がいくつかあるようなのだ。
私を襲った、あの緑色の変態の集落だ。
それを見つけた時は恐怖で叫びそうになったね!
正直あいつとはもう会いたくないのだよ。変態だし……
だが、それがうじゃうじゃと何匹もいるのだ。
いや、それは言い過ぎか……せいぜい10数匹だったな。
とにかく、そこを抜けるか、ほかの抜け道を探すなどをしなければ、私は人族を見つけることが出来ないのだ。
洞窟の後ろ側は高い岩崖になっていて通れないし、集落を迂回しようとしてもヴリエの木周辺は緑の変態が定期的に巡回しているようで、すぐに見つかってしまうだろう。
最悪の場合、人族が見つからずに永遠と森で暮らすことになるかもしれない。
しかし、それは困るのだ。
なぜなら人というのは1人では生きていけない生物ゆえ、最低限2人でもいいから群れを形成しなければならないのだ!
だって、ふとんの研究して引き篭ってた頃の私でさえ数少ない友人とのやり取りは辞めなかったのだ。
それなのに、メール、ネット、スマホ無しで独りなんて……
このままでは精神衛生上まずい!非常にまずいぞ!
どうまずいかと言うと、多分人と関わらずにあと1ヶ月も生活すれば、私は狂ってしまうだろう!
架空の友達、俗に言うイマジナリー・フレンドなるものを作り出し、虚空に向かって話しかける哀れな存在になってしまう所まで見えているね!
……うん。
「まぁ、簡単に言うと寂しいのだよ……」
一人、虚空に向かい呟く。返事はない!
……そんなこんなで、考え事をしながら作っていた物がようやく完成したとさ。
え?何を作ってたんだって?そりゃもう朝ご飯よ!
「うん、美味しそうな焼きヴリエの実だ。
付け合せの山菜炒めもなかなかよさげではないだろうか?」
私は出来上がった焼きヴリエの実と山菜炒めをいい感じに盛りつけた。まぁ盛り付けたといっても石の上ではあるが……
「いただきます」
どんな時でも感謝の心は大切だと祖母に教わったからな。こんな時でもいただきますは大事だ。
手を合わせ箸替わりの木の棒を手に持った。
さぁまずはどちらを食べようか?
うーん……じゃあまずはいつもどうり焼きヴリエの実からいくか!
「もぐもぐ……うん、最初作った時よりも美味くなったかな?なんというか、深みが増したような、増してないような……」
よし、美味しい!次行こう!
次の山菜炒めは初挑戦だ!いや、一応食べられるかどうかは確認済みだが、炒めて美味しくなるかは未知数だ。
さぁ、味を確かめるためにも、実食!
「もぐもぐ……うん……あれだね。
……なんか、渋いね。うーん、うん。植物って感じだね……?」
植物特有の渋みが全体的に残ってる上に、色んな山菜をぶっ込んだせいで形とか硬さとかがアンバランスだぁ……
大人の味……いや、自然の味……
うん、もういいや!正直いってマズイ!
「ご馳走様でした」
残っていた山菜炒めをスローペースながらも食べ終えると、手を合わせ一息つく。
相当つらかったが、何とか食べ終えることが出来た。
昔から残すと母上に大変怒られていたので、食べ物を残す気になれないのだ。
異世界でもその枷から逃れられないとは……なんという拘束力。母上の怒りは最強かもしれない。
お腹いっぱいになり、ゆっくりと考え事を始めた。
私は後ろにあったふとんにゆっくりと寝そべり、そのまま目を閉じる。
───ひとときの静寂。
……そして、突如!私は目を見開き叫んだ!
「あー!肉食いたい!米食いたい!魚食いたい!
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
もう無理だぁー!耐えられない!
もっと栄養価の高いもの食いたい〜!
ステーキとかハンバーグとかラーメンとか米とか米とか米とか……
「はぁはぁ……探さねば……!早急に探さねば!人族の土地!私のご飯!」
ふとんの上でじたばたして、ひと通り暴れ回った私は息を切らしながら、拳を洞窟の天井へ突き上げた。
プルプルとふるえる拳は、弱々しく空に向かって伸びている。
これは覚悟だ。絶対に美味しいご飯に辿り着いてやる……!
そのためには、やはり早急にあの魔物を根絶やしにする……いやそれは怖いから別のルートを探さなければ……
私は新たなる決意を胸に今日も行動を開始するのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「グギャァ!」
「グガ!グギャア!グギャギャギャギャ!」
「……」
緑の変態の集落を、ヴリエの木と背の高い草の影から観察すること2~3時間。
私はこの低俗で生産性の無い浅ましい奴らをどう滅ぼしてやろうかと考えている最中だった。
……そんなこと言うもんじゃないって?
いやいや、四六時中殴り合うかヤルか狩ってきた動物の死体で遊ぶかする奴らなんて死んだ方がマシだろう。
あぁ、貴重なタンパク質……兎肉……
あんなにぼろぼろになって……食べ方知らないなら狩るなよ……
悲しくなりながらも、今の私にできることはあまり無い。
なので、取り敢えずは自分の苛立った気を収める事に専念する。
(あ〜楽しいこと考えよ。ふとんふとんふとんふとんふとん……)
よし!元気出た!頑張って見張るぞー……まぁここの所なんも情報ないんだけど。
……いや、食べられる植物とか食べられない植物とかはこいつらを観察した事でわかったんだ。
こいつらがあからさまに避ける植物=毒性を持っていると考えて生活してきたんだし、しっかり集中して観察しなければ!
「……グガァァァア!」
「グギャァ!グギァァア!」
「グギャギャギャ!」
そんな事を考えてる間に集落の狩部隊が帰ってきたみたいだ。
集落の奥の森、私が人族の村があると考えている方からやって来た魔物達。
そいつらは、集落に残っていた変態よりも幾分か背が高く筋骨隆々であり、恐らくこの集落のボス格なのではないかと思われた。
そして、その手、というか引きずる形で両腕に抱えられているもの。傍から見ただけで硬そうだと思える、黒い体毛をした全長1mくらいの猪が目に入った。
猪かぁー……叔父の家で猪の肉がよく出たなぁ。
脂身の所がかたくて、当時子供だった私はあまり好きではなかった。
その上社会勉強とか訳の分からない理由で、叔父が狩ってきた猪とかその他動物を捌く手伝いをさせられ一時期トラウマになったなぁ……いい思い出だ。
叔父元気かなぁ……?元気だといいな……
おっと、つい思い出に浸ってしまった。
さっき集中すると言ったばかりだったな……いけないいけない。
えーと、今何してるんだ?
私は先程の変態たちのボスを探す。
あまり大きい集落では無いのですぐ発見することが出来た。
どうやら集落の中心部で、さっきの猪をボス自ら解体しているようだった。
ほーう?
手下の変態達は解体等の知識はなさそうだったが、流石にボスは違うようだ。
あまり上手くはないが猪の解体処理しているあたり、ある程度の知能があるみたいだな。
これは集落越えの危険度を上方修正しないといけないか……
私はそれを確認すると、もう太陽も傾いていたこともあり
一度洞窟に帰還するのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー
「ふぅ〜……疲れたー」
帰ってきた洞窟の地面に座り、一息つく。
帰り際に拾ってきたヴリエの実を調理台(石)の近くに置くと、取り敢えず奥の湧き水で顔を洗った。
「あ〜さっぱりした……この際だし身体も拭くか」
破れやすい布地をイメージして召喚したふとん。
それを無理やりちぎって作った布を、湧き水で湿らせて体を拭く。
「うーん、風呂に入りたい……いや、高望みだな。この洞窟がある事に感謝しよう」
しかし、口では感謝しようとは言ったが、流石に辛いものがある。乙女としてのプライド的なものは青春時代の寝坊でもう無いに等しいのだが、だがなぁ?
頭を洗いながらそんな事を考える。
……ちゃんと湧き水が汚れないように、湿らせたふとんと手で掬った少量の水で洗っているため衛生面は大丈夫だ。汚いとか言うなよ?泣くぞ?
「髪長いのめんどくさいな……切ろうかな?あっ切る道具ないわ」
もはや癖になってしまった独り言をぶつぶつと呟きながら、髪とか体の水気を拭き取っていく。
こんな所母上に見られなくてよかった……ガチでぶちギレられる所だった。今の所この点だけが救いだなぁ。
心も身体もさっぱりした後、次に持って帰ってきたヴリエの実で夕飯を作り始める。
これがここ3日の日課である。
この3日間で子慣れてきた火魔法【ガスコンロ】を使いながら利き手の左手でスマホ……ステータス板を操作する。
「なんか上がったかなぁ?」
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永巳 叶夢(ながみ かなむ) 性別︰女 種族︰人間
レベル︰4 MP︰55
スキル
〘研究︰7〙〘思考︰8〙〘集中︰9〙〘睡眠︰8〙
〘火魔法︰3〙〘創作︰1〙
固有スキル
〘ふとん召喚〙
スキルポイント︰3 スキル検索︰
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おぉー!また1レベル上がってる!
あとは、MP+5と思考が+1されて8に、そして、スキルポイントが3に増えたな!それに、やはり推測は当たってそうだ!
いやーいいなー。
なんでレベルが上がるかは分からないけどいいなー!
おっと、そうだ。最近ふとん召喚の表も見てなかったし、ちょっと見てみようか。
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〘ふとん召喚〙
MPを消費し ふとんを召喚する
消費MP︰10
ふとんポイント︰18
ねごこち︰6 射出︰2 硬度調節︰2 結界︰2
取得可能(消費ポイント)
回復(5) 浮遊(10) 消費MP軽減(15) 走行(30)
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「お、増えてる!」
やった!なんか知らんがポイント増えてる!
えー確か、レベル1の時にゼロになったから、この3日で18も増えてるのか!爆速だな?
ふふふ〜!どうしよっかなー何に振ろっかなー?
私はワクワクしながらふとんポイントを振り分けていく。
おぉっと、危うくヴリエの実を焦がすところだった。危ない危ない。
ヴリエの実を皿(石)に盛り付けする。
そして、ご飯を食べる前にふとんポイントを振り分けた。
「……うん!これでよし!」
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〘ふとん召喚〙
MPを消費し ふとんを召喚する
消費MP︰10
ふとんポイント︰5
ねごこち︰6 射出︰7 硬度調節︰7 結界︰5
取得可能(消費ポイント)
回復(5) 浮遊(10) 消費MP軽減(15) 走行(30)
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という訳で射出に5、硬度調節に5振って両方7に、あとは結界に3振って5にした。
そういえば結界ってなんだろう?……まぁいいか!
これで残りのふとんポイントは5になった!
さぁ、なぜこの振り分けにしたか疑問だろう?
だが、聞いてくれ、私の予想ではこれでいけるはずなのだよ。
……何がって?まぁまぁ見ていなさい!
「えーと、イメージイメージ……とその前にご飯!いただきます!」
私は急いで焼きヴリエの実を食べると、ワクワクしながら外に出た。
そして、周囲のものよりも一際大きなヴリエの木の前に立つと、腕を突き出して構える。
「イメージ……イメージ……」
私はイメージする。
とにかく硬い、えーと、硬いもの、鉄!
鉄のように硬く、角と辺がしゅっと鋭い30センチ位の四角形のふとん!
……え?そんなのふとんじゃない?いや、私の中ではふとんだね!私がふとんと言ったらふとんなのだ!ふとんは概念だ!
……という訳でイメージする。
そのかたいふとんが木に向かって勢いよく射出される様。
……いや、ただ射出させるだけだと弱いな。回転を加えよう。
うむ、回転する鉄ふとん。うん、うん。
「……ッ!」
よし!イメージできた!今だ!
「いけっ!【布団手裏剣】!」
私は叫んだ!イメージ通りの名前を!
───すると、私の構えていた手からイメージ通りのふとん。
30cm四方の鋭いふとんが飛んでいき、目の前、2m程離れたヴリエの木にカーン!といい音をたてて突き刺さった!
木はメキメキと音を鳴らし、切れ落ちないにしろ凄まじいダメージを受けていることは明らかだった。
「……よし!成功だ!これがあれば、ふふふふふ……!」
森脱出の目が見えてきた……!
私は心の中で、いや、心の中でと思っていたがどうやら身体も動いていたみたいだ。私は思いっきりガッツポーズをする。
そしてその後、楽しくなって夜遅くまで【布団手裏剣】を研究するのだった。
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