第二話『火魔法とこれから』


「出発だ!やるぞー!おぉー!」


 洞窟を見つけた次の日。

私は生きるため、本格的に行動を開始した。


生活する上で必要なものは沢山あるが、なんといってもまずは食料だ。これがないと人間生きていけないからな。

周囲の森に木の実や果実が無いかを探そう。


というわけで、洞窟周辺の植物などをしっかりと観察して食べられそうなものを探していく。


そうやって森を探していると、割とすぐに見つかった。


……見つかったのだが。


「えっと……これは、食べられるのか?」


 目の前の木に生っている果実を見て、ゴクリと生唾を呑む。

別にお腹がすいたからでは無い。目の前にある果実が明らかにやばい色をしているからである。


青い梨と表現するのがいいだろうか?

あまり美味しそうな色ではない。ていうか言ってしまえば全く食欲をそそられない。かの有名な青狸くらいの青さである。


そんな果実を触ってみれば、ナスのようなブヨブヨとした感触。


うーむ……私はナスがあまり好きでは無いのだが。

食感とか大丈夫だろうか?味は別に大丈夫なんだが食感がなぁ……?


「……しかし、ここで止まっている訳にはいかぬのだよ!」


 背に腹はかえられぬ!こうなったらいっぱい採って帰ろう!

この果実は群生している様で、ひとつ見つけたら芋ずる式に沢山見つかった。

今住処にしている洞窟からも近いし、これが食えればしばらく食料には困らないだろう。


そんな事を考えながら果実を採取して腕に抱えていく。


「さて、次は……武器だな」


これは私的に考えがある。

やはり、人類の戦いの歴史から考えるに一番手っ取り早く強い武器と言ったら、槍だろう。


 そこら辺の木にあたりをつける。

そして、その木から伸びているある程度長くて細い枝に手を掛けた。きっと私の力ではこの程度の枝が限界だろう。


若干強度が心もとない気がするが、まぁ仕方ない。

何にしろないよりはマシだ!


「ふん!んんん!はぁ!……ッ折れ、た!」


 メキメキと音を鳴らして主木から枝が裂けていく。


よ、よし。何とか一本いい感じの枝を取ることができた。頑張って生きている木には申し訳ないが、私も生きる為なのだ……許せ!


手に持っている枝を軽く振るう。

風を斬るブォン!という音がしっかりと聞こえてきて、どうやら振り回す程度では折れない事が確認できた。


「うむ。いい感じだな!」


 私より少し小さいぐらい、私が150台だから130ぐらいだろうか?ちょうど取り回し易いぐらいの枝を取ることができた。


欲を言うと、本当は竹等がやりやすいのだが……流石に見つからなかったので今回はこれでいいか。


「あとは、予備用のやつを数本だな」


 とまぁそんな感じで、同じ位の手頃な枝を4~5本取っていく。

それらを纏めて小脇に抱え、いつの間にか額に滲んでいた汗を拭った。


「全く……最近外に出てなかったから少しの作業ですぐ疲れるな。

まぁでもコレで必要なものは揃ったし、とりあえず洞窟に帰るか」


 青い果実の群生地点からしばらく歩いて、拠点となっている洞窟に戻る。

私の両の手いっぱいに荷物を持ってしまったため、道中で何度か荷物を落としそうになったがなんとか運び込むことができた。


「ふぅ……やっぱりリュックって便利だったんだな……?」


 そんな当たり前のことを呟きながら、拾ってきた青い果実を湧き水で洗う。よし……これでだいたいの汚れは落とせただろう。


あとは、食べる勇気だけ……!


「……食べてみるか?

いや、しかしこの色はなぁ……?」


青い、あまりにも青いぞ……?

私、毒有りますよ?って顔してるぞ?


こ、これは……喰えるの……


……


「……えぇい!気合いを見せるぞ私!

人生結局最後は度胸だ!慎重なだけではやっていけないのだよッ!」


 勢いに任せ青い果実をひと口齧る。

すると、口内に植物特有の臭みが広がり、ナスのようなぐにゃりとした食感で溢れかえった。


「うっ……!?これは……!!!???」


───胸を抑えて蹲る。


私は身体をぷるぷると震わせて、青い顔を俯かせた。


助けを求めるように手を伸ばし、ゆっくりと前に進んでいく。


そして……



「に、苦い……!?」


そう呟いて、目の前にある湧き水をがぶがぶと口に含む。

すると、口全体に広がる苦味が段々と薄れていくのを感じる。


やばい、これはすごく苦い。植物特有の渋みが相まってブラックコーヒーもびっくりの苦さである。


「……しかし、食べられないほどでは……!」


 自分に言い聞かせるようにそう言って、無理やり腹に詰め込んだ。そうでもしないとお腹が限界だし、このぐらい耐えなければこれから生き抜くことが出来ないだろうから。


「んぐ……うぅ……!まず……?!はぁ、はぁ……!」


 そして、ひとつ食べ終わったあと、私はあるスキルを発動する。


───それは研究のスキル。

物を研究するというシンプルなスキルである。


私は昨日の夜、スキルについて一通り調べてみたのだ。

そして、どうやらこの研究というスキルは物を研究するもの……


つまりそれがどういう物で、どんな効果があり、それをどうすれば改良できるかといった事が分かるようだ。

しかし、その情報を得るには、その物の用途に合った使い方をして、熟練度をあげなければならないらしい。


だから、害があるとも分からない青の果実を食べたのだ。

取り敢えず最低一個食べて大丈夫かだけでも調べなければ、このスキルが発動できないからな。


「というわけで、【研究】発動!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       〘 ヴリエの実 〙


 ヴリエの木に群生する果実。

しかし、果実はヴリエの木から生っている訳ではない。

ヴリエの木の魔力を養分とするため寄生しているだけであり、その結果ヴリエの木を枯らしてしまうこともある。


 ひとつの木になる果実は多い時で100以上になり、どの季節でもなることから、人族の間では生命の象徴として親しまれている。

強い苦味があるが、火を通すことで苦味が消え甘くなる為よく食べられている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「よし!割と賭けだったが上手くいったようだ!」


しかも、嬉しい情報も手に入った。

焼けば甘くなるという情報、そして……


「人族……!」


青い板に書かれているその文字に、思わずガッツポーズをとる。


 そう、この世界には人族が居る!

考えうる最悪の状況として、人は私しか居ないとまで考えていたからこれはありがたい情報だ!


「そうと決まれば、この森から抜け出して人に会う……

これが今後の目標だな!」


 そのためにはまず最低限戦えるようにならないと……

森を抜け出す道中で、また変態なんかに会ったら簡単に殺されてしまう。


そんなのはごめんだ。

変態に殺されるなんて私の人生史上最大の汚点になりかねない。


「だから、一刻も早く武器を……

……ぐ、不味い……!まずいぞヴリエの実!」


 安全とわかったヴリエの実を食べながら、手元にある木の枝を加工していく。


近くにあった石を拾い、少しづつ削る。

先端を尖らせて尖らせて……なんか原始人みたいだな?


「……(ガリガリ)」


 まぁしかし、こういう作業は嫌いじゃない。

無心になってできるから楽しいし、こういう体験をするのは大変興味深いので望むところである。

私は地味な作業も割と苦にならないタイプなのだ。


「……よーし、何とか形にはなったな」


 そうやって二~三時間が経過し、ようやく全部の木を加工できた。一息つきながら、足に落ちた木くずを手ではらい落とす。


うーむ。先程までただの長い枝だったが、少し手を加えるだけでこの通りである。やはり長い歴史というのは最良を作るのだよ。


というわけで、私が作っていたのは枝の先端を尖らせた武器。


所謂"槍"といわれる分類の、昔から一般的に扱われているリーチの長い武器である。


「まぁ、素人にしては十分の出来栄えだろう」


 集中して作り出した木槍を眺める。

歴史資料などで見るようなものと比べると少々不格好だが、先端は鋭く、持ち手も怪我をしないよう手を加えてある。


猪とか象とか、皮膚が硬質な生物だと流石に歯が立たないだろうが……柔らかい肉を貫くには最低限大丈夫だろう。


……というより、猪なんかと戦ったら死ぬ自信しかない。

もしその状況になったら全力で逃げるを選択するね!


「……ん?ステータスなんか変わった?」


 そうやって完成した槍を見ながら、スマホをいじるみたいにステータスを確認しているととある異変に気づく。


なんか、ちょっとだけステータスの表示が変わっているのだ。


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永巳 叶夢(ながみ かなむ)  性別︰女  種族︰人間


レベル︰2  MP︰45


スキル

〘研究︰7〙〘思考︰7〙〘集中︰8〙〘睡眠︰8〙


固有スキル

〘ふとん召喚〙


スキルポイント︰6   スキル検索︰


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「えーと、レベルが1、MPが5、研究、思考、集中が1ずつ……あ。あとスキルポイントも1増えてるな?」


 レベルって言うと、ゲームでは確か強さを表すものだったっけ?例の友人は確かそう言ってたはずだ。


……そうか、私は強くなったのか。

うんうん、嬉しいことだ!成長するのは良きことである!


……しかし、こうやって目に見える形で現れるのはなんだか面白いな?


地球では自分の実力なんてものは分からない。

きっと自分に自信をもてる人間の方が少ないし、どれだけ努力をしても報われなかったり、もしくは報われているかがわからなかったり……


だが、この世界では明らかな数値が見えるときた。

それはとてもとても努力のしがいがあることだろう!


「これはとても良い常識(システム)だな。地球でもあればよかったのに!」


 少し笑顔になりながら、成長した3つのスキルに目をやる。

物を研究するシンプルなスキル〘研究〙、そして思考と集中。


……そういえば、研究以外のスキルはどういうものだったか?

1度見たが忘れてしまったな。成長していないスキルも合わせて、ちょっともう1回見てみるか。


 まずは復習も兼ねてもう一度研究から。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         〘研究〙


 物を研究するスキル。

対象物がどういう物で、どんな効果があり、それをどうすれば改良できるかが分かる。

発動条件は物の用途を知り、正しく使う事で熟練度が上がり、詳細情報を見ることが出来る。


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 次は思考だ。


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         〘思考〙


 思考を強化するスキル。

思考速度を上げるほか、正しい行動を導きだしやすくなる効果もある。


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 ふむ、次。


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         〘集中〙


 集中力を強化するスキル。

作業効率を上げる効果がある。


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 最後に睡眠だな。


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         〘睡眠〙


 睡眠を強化するスキル。

どんな状況下でも睡眠できるほか、睡眠中の回復効果増大、睡眠後の成長速度上昇効果もある。


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うん。まとめると、なんか色々いいよってことだな?

……まぁ、研究以外は発動条件もないし、気にするのは研究だけでいいな。


そんなことを考えて、ぼーっと青い板を眺める。


「……ふむ」


 すると、私の目があるひとつの項目に奪われた。


……ずっと気になっていたが、このスキルポイントなるものは何に使うんだ?

ふとんスキルポイントと一緒で、スキルレベルをあげられる?


……いや、隣にスキル検索とかいう奴があるし、もしかしてスキルを取得できるのか?


うーむ。

分からないままは気持ち悪いし、ちょっと調べてみるか!


 私はスキル検索をタップする。

すると画面は変わり取得可能という欄と、スキルポイント不足と書かれた欄が現れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         《取得可能》

     回避[5]創作[5]火魔法[5]



       《スキルポイント不足》

  槍術[10]精神耐性[10]土魔法[10]

     風魔法[15]水魔法[30]


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と、なんか色々取れるみたいだが……


「しかし、これは……流石に気になるな……!」


私の目は他のどのスキルよりも先に、一点に注がれていた。


それは……




        『火魔法』




 

……そう、魔法である!


これは、やばい!

火魔法とか中学の頃の古傷が痛む……!

学校の図書館でひたすらに資料を探して、ノートにまとめていた記憶が蘇るな。思えば私はあの頃から研究者基質だった。


……あ。待てよ?


「あのノート、実家に置きっぱなしだ。終わった……」


なんということだ……

手が出せなくなった今になって思い出すなんて……


「いや、今はそれ所ではない!

今問題なのはこの火魔法というやつをとるかどうかだ!」


私の黒歴史ノートについては全くもって考える必要は無いのだ!

一刻も早く記憶から消し去ろう!


さて……どうしよう。とるか?!取っちゃうか?!

今、取ってもいいものだろうか!?


「えぇい、めんどくさい!悩むくらいならば取ってしまえ!」


 ポチッとな!


……取れたのかな?

スキル検索の画面から戻って確認する。


するとそこには、スキル欄の部分に爛々と輝く〘火魔法︰1〙の姿があった!


「おぉ〜!」


その興味のそそられる文字列に、思わず感嘆の言葉が漏れる。

スキル取得欄がゼロになってしまったが、これは必要な犠牲だ!仕方がないのだよ!


「よし!火魔法を使おう!」


 私は早速取得した火魔法を使おうと試みる。


え?使い方がわかるのかって?

多分あれだろう。ふとん召喚と同じ感じで行けるだろうきっと!


それにしても、変態との戦闘の時は友達の話を思い出せてよかったな。思い出せなけれ弄ばれて死んでしまうところだった。

例の友人には大変不本意ながらも感謝しかない。


というわけで、今後も私から不本意な感謝を受けるであろう友人の話によると、異世界転生ものの魔法なんかで大事なのはイメージらしいのだよ。


 例えば、ふとん召喚する場合ならどんな素材で、どんな柔らかさで、どんな大きさでっていうのを明確にして技の名前を叫ぶと召喚できるみたいだ。

 これは小説の話ではあったが、しかし実際に私がふとんの召喚に成功しているのだから友人の話はとりあえず全信用で行っていいだろう。


ていうか、それしかない。

なんたって今の私には、異世界について友人の話ぐらいしか知識がないわけだしな。……不本意ながら!


 その他に不本意な友人が魔法について説明してくれた事としてもうひとつ情報がある。

なんでも、イメージに適した技の名前をつける事によりイメージが明確化される、とかいう話。


ふとん召喚ではあまりにとっさすぎて使えなかったが、今回は状況が違うのである。

ということで、ここまで予習出来たらあとは実践だな!


 えーと、まずはイメージ。


「むむむ……」


 そうだな、火が点火するには確か……

可燃物、酸素ガスのような酸化剤と引火点を超えるための熱が必要なはずだ。


 これは、火の魔法である事を考えるに、火以外の物質を動かせる訳では無いだろう。

だからまぁ、酸化で燃えますよーぐらいのイメージでいいのではなかろうか。

明確化しすぎてしまうとなんか逆に自由度が狭まりそうである。


よって、理論はこの程度にしておこう。

……私の専攻はふとんなのであまり詳しく知らないし。


 えー、次にどんな火かだな。私としては青い火、まぁガスで燃えた火だな。よく燃えるし、今回はそれを採用したい。


最後に大きさ。大きさは弱火くらい。……いや、中か?


……まぁ取り敢えず至らなかった点は後で変えればいいし、今回は弱火でいこう!


「……よし!イメージできた!」


 あとは、イメージにあう名前。これはもう決まってるな。


私は、イメージしたその物の名前を呼ぶ。

一般的なご家庭で、広く使われるあの調理器具を!



「《ガスコンロ》!」



 体から何かが出ていく感覚と共に、目の前にあらかじめ用意しておいた真っ平らな石に小さな青い火が灯る。

円状に並んでいる小さな炎たちは陽炎と共にゆらゆらと揺れている。


……まぁ名前の通りガスコンロだ。


「ふむ、成功だ!我ながら上手くできたな!」


 え?名前がかっこよくないって?

……かっこよさなど実用性には適わないのだよ。


 だって、私の大好きなふとんでもその一例があるぐらいだ。


旅館なんかで出てくるふとん。

あれはスっとはめられる白いカバーに入っていて大変綺麗だが……

しかし、あのカバー。


寝てるとすぐ外れて邪魔だろう?

その後もぐちゃぐちゃになって絡まってきたり……


……とまぁ、そういう事だ!

ふとんも魔法も実用性が一番大事。


 と、そんなわけで、早速ヴリエの実を焼いて……あ!


「待てよ?ミスったぞ!

これ石の下に火を出さないとヴリエの実焼けないじゃないか!?」


 このままでは直火で焼くことになってしまう!


 急いでもう一個平たい石を探し、火がついてる方の石の両隣に四角い石を並べ、その上に見つけた新しい平たい石を乗せる。


 ふぅ……近場にもう一個平たい石があってよかった。

なかったらただMPを消費しただけになってしまうところだった。


 私はほっと胸を撫で下ろしながら、ヴリエの実を料理するため石の上に実を乗せた。

……だが、待てども待てども一向に焼ける気配はなかった。


「あれぇ?なんでだ?火はついてるはず……ついてない!?」


 不思議に思い石の下を覗いてみると、さっきまで灯っていた青い炎は消え失せ、下の石に少量の焦げあとが残っているだけだった。


「うーん……なんでだ〜?」


 私は原因を考える。

酸素は普通に入るはずだし、消すってイメージしてないし、そもそも魔力を燃料としてるから酸素要らないはずだし……


「ん?待てよ。確か私が魔法を使った時に、MPを消費した。一度にごっそりと……」


 それは私のステータス板でも確認済みだ。ガスコンロは一度にMP1を消費していた。


そう、一度にMP1を消費していたのだ。


 そして、今の私のMPは44。

……1しか消費していないのだ。


そのことから考えられることは……燃料不足?


「……そうか、ガスコンロを保つ為には一度にMPを消費するのではなく、燃料として持続的に送り出す必要があるのか!」


 その考えに思いいたり、次に私は魔法を持続する方法を考える。

さっき魔法を使った時は、一度にごっそりと持っていかれた。

そこに至るまでのプロセスはイメージを固めて、魔法を発動……


イメージを固めて……?


「ふむ。継続した魔法利用……」


魔法のイメージ固めてMPを消費してしまうと、MP1分を消費して直ぐに消えうせてしまう。


……ならば、常に頭の中で考えておけばいいのでは?


「……《ガスコンロ》!」


 もう一度イメージして文言を呟く。


すると体から何かが抜ける感覚……きた。これを持続!

頭の中で、ガスコンロの火をイメージ!


「お?おお!じゅうじゅう言い出したぞ!」


 しばらくイメージを続けていると、石の上に乗っていたヴリエの実から水分を含んだ野菜が焼ける、特有の香ばしい匂いが漂ってきた。

 おっと……おもわずよだれが……


 いい具合に時間が経ったところで裏返す。

すると、青いその身に飴色の焼き目が現れていて、酷く私の食欲をそそった。


「よし、食べよう!」


辛抱たまらず、焼いたヴリエの実を手頃な木の棒で突き刺し口元へ持っていく。

口元から熱気を感じる。


私はそんなヴリエの実へ試しに齧りついた。


「あつっ……!」


 齧りついた後から溢れ出る、あつあつの果汁。

加えて、野菜特有のじわっとした優しい甘さ。


とても熱かったが、しかしそれがたまらなく美味しくて、次々に齧りついていく。


「【焼きヴリエの実】……美味い!」


歩き回ってお腹がすいていたのだろう。その後、いくつも焼いては食べてを繰り返した。


 そして、お腹がいっぱいになり、私は満足感とともに眠りにつくのだった。

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